ウィリアムズ症候群、脳と音楽



このホームページに掲載されていました。資料番号1-1-07の研究成果に言及していると思われます。

(2006年11月)

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Williams Syndrome, the brain and music

Public release date: 3-Oct-2006
Contact: Gina Kirchweger
kirchweger@salk.edu
858-453-4100 x1340
Salk Institute

ラ・ホヤ、カリフォルニア;希少遺伝子病であるウィリアムズ症候群の子ども達は、とにかく音楽が好きで、長い時間、音楽を聴いたり作ったりする。平均的な知能指数は60であるが、多くの子どもが多量の曲を記憶し、人並みはずれたリズム感を持ち、電気掃除機の型式の違いを聞き分けること以上の素晴しい聴覚の鋭さを持っている。

複数の研究所の研究者たちが協力し、まもなく出版される「NeuroImage」の最新版で紹介される研究によれば、ウィリアムズ症候群に苦しむ人の脳内にある特定の部位に器質的異常が見つかった。この異常は音楽に関する非常に強い興味、ときには、サバン症候群に近い音楽能力を解明する可能性がある。

今回のユニークな共同研究の中心的存在である、ソーク研究所認知神経研究室長のアースラ・ベルージ教授(Professor Ursula Bellugi)は、「失われた遺伝子と、その影響を受けた脳の機構と機能の変化、そして最終的には行動とのつながりを理解することで、どのように脳が働くかを解明できるかもしれない」と説明する。

現在行っている研究は、ここ数年で注目を集め始めている物語のもっとも新しい章である。これはベルージが学際的な分野に手を伸ばし、個々の遺伝子が脳の発達や機能に与える影響を追跡するためにアメリカ国立小児保健発育研究所の研究プロジェクトの傘の下で専門家チームを結成した時から始まった。

共著者で、ハーバード大学医学部神経学教授のアルバート・ガラビューダ(Albert Galaburda)、スタンフォード大学学際的脳科学研究センター教授のアラン・ルイス(Allan L. Reiss)、その他の共同研究者によれば、脳の形態、特に脳の細胞構造に注目が集まっている。分子遺伝学者でUCLAの小児科学教授のジュリー・コーレンバーグ(Julie R. Korenberg)は、ウィリアムズ症候群の人が失った遺伝子の研究を更に深く行っている一方で、エモリー大学心理学準教授のデボラ・ミルズ(Debra Mills)は神経生理学に専念しており、神経ネットワークが働くときの電気的活動状況を研究している。この症候群の認知的側面を研究しているベルージは、「やっとひとつにまとまり始めたところよ」と言う。

40年以上前に規定されたウィリアムズ症候群は精子あるいは卵子が作り出されるときに起きた異常な組換え事象を原因とする。その結果いつもきまって20個前後の同じ遺伝子群が第7染色体の片方から欠失し、この欠失をもつ人をこの世に、人のほうが物より意味を持っている世界に送り出す。

「ウィリアムズ症候群は、遺伝的素因が環境と相互作用の結果脳を独特の形に作り上げるという事象の完璧な事例です」、とレイスは言う。「典型的なあるいは非典型的な状況下で脳がどのように発達するかを理解するためのユニークな窓を提供してくれる。」

ウィリアムズ症候群の人は見知らぬ人に興味を覚えることを抑えられず、容易に名前や顔を記憶し、強い共感能力を持ち、発話言語についてはとても流暢である。しかし、身の回りの視覚世界には惑わされる。象の絵を描かせると幼稚な数本の線を描く程度の能力しかないが、言葉では詩的にその動物の詳細を述べることができる。

「彼らが使う愛嬌たっぷりの言語の社会的利用と貧弱な視空間認知能力の乖離は驚きです」、とベルージは言う。「全ての証拠を揃えられれば、これらの極端な様態の差をもたらしているであろう、ウィリアムズ症候群欠失領域に存在する遺伝子とその過程を明らかにできると確信しています」。

ウィリアムズ症候群の人は脳の全体容積が正常に比べて15%も小さい一方で、外耳道のすぐ上に位置し、たくさんの機能とともに音を処理し言語や音楽を翻訳する機能を持つ側頭葉はほぼ正常な容積がある。彼らを研究する中で、側頭葉の一部であり聴覚機能や絶対音感に深くかかわっていると考えられている側頭平面がすばらしい音楽的才能や言語能力の源であるという仮説の答えを出そうとしている。

筆頭著者であり、スタンフォード大学から現職である南カリフォルニア医科大学の助教授になったマーク・エッカート(Mark Eckert)と彼の共同研究者は、ウィリアムズ症候群患者42人と対照群40人の脳のスキャン画像を使って側頭平面の表面の折り畳み構造を比較した。大抵の人の場合、細く1インチほどの長さのその器官は脳の右側より左側のほうが大きい。

しかし、ウィリアムズ症候群の人の場合、両側の大きさがほぼ釣り合っていた。「これを説明する2種類の異なる可能性があります。左側が十分大きくならないか、右側が普通より大きくなったのです」、とガラビューダは言う。折り畳み構造パターンの一つで、シルビウス溝と呼ばれる大きな溝型の構造は、右側の側頭平面の大きさが大きくなっていることを示している。

しかし、大きさだけではウィリアムズ症候群の人々の聴覚能力が人並みはずれて良いことの説明にはならない。ウィリアムズ症候群の特定の長所短所に影響を与えている可能性がある脳領域の神経接続の変異など、もっと汎用的な説明が必要である。

最近の研究で、ガラビューダはウィリアムズ症候群患者の一次視覚野にある細胞が小さくかつ高密度に詰め込まれていること、その結果細胞間の結合が少なくなることを発見した。一方で、一次聴覚野の神経細胞は大きく低い密度で存在し、結合数が大きいことを示している。

「細胞の大きさと密度の違いは優れた聴覚音韻体系や言語能力、そしてひょっとすると音楽才能の基礎となり、一次視覚野に関しては劣っている視空間構成能力を説明できる可能性がある。また、これは欠失した遺伝子が脳の発達に及ぼす影響の本の一部に過ぎないのです」とベルージは語る。

「比較的些細な発達障害でも神経機能に顕著な影響を与えることがあります」、とソークの神経専門医で視覚システムの発達を研究しているデニス・オレアリー(Dennis O'Leary)は言う。「この研究は、どのように遺伝子が脳の中で働き、我々を我々たらしめているかを明らかにするでしょう。」



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