極端な人懐こさ:ウィリアムズ症候群の子どもと大人に会う



アメリカの放送局ABCの番組「20/20」で2011年6月10日にウィリアムズ症候群が取り上げられました。 このホームページを参照してください。番組のビデオも見られます。

この内容を個人の方が訳したページもあります。

(2012年8月)

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Friendly to the Extreme: Meet Kids and Adults With Williams Syndrome

By MICHAEL MENDELSOHN and MIGUEL SANCHO
June 9, 2011

ウィリアムズ症候群は稀少遺伝子病です。非常に稀である為に、実際にこの病気について聞いたことがある人はほとんどいません。出生児7500人に対して1人の割合で生まれてきます。しかし、その人は、出会えたとすれば忘れることができないような情熱とやさしさという個性を持ち合わせています。これはウィリアムズ症候群以外の世の中ではたまにしか見られないタイプの性格です。

ABCの番組「20/20」のクリス・クオモ(Chris Cuomo)がウィリアムズ症候群の患者のキャンプに参加したとき、彼はハグと背中を軽くたたく歓迎の嵐にあいました。その次は質問攻めです。「好きな色は?」、「どこに住んでいるの?」、「恐竜のバーニー(Barney the Dinosaur)にあったことある?」など。

ウィリアムズ症候群の子どもたちは、小さくとがった歯、上向きの鼻、一目でわかる眼の下のふくらみなど容貌の特徴的な変化で特定することもできる。しかし、あなたが何者か、あるいはどんな外見かにかかわらず、キャンプは全員が友達になる場です。

「小さな子どもが近寄ってきて、あなたの顔をまじまじと見つめたとしましょう。その視線から逃れることはきっと簡単なことではありません」と、ボストン大学の研究室でウィリアムズ症候群の子どもたちの社会的行動を研究しているヘレン・タガー−フラスバーグ(Helen Tager-Flusberg)は言います。「かれらが4歳か5歳で、あなたとは面識があっても無くても、5分もあれば彼らはあなたと親しい友達になっているでしょう」

ヨーロッパの研究者たちが行った興味深い研究(訳者注:資料番号3-9-225参照)によれば、ウィリアムズ症候群の子どもたちはまったく人種的偏見がないそうです。子どもでも、赤ん坊さえも自分と同じ人種を好む傾向がありますが、この人種的偏見を埋め込んだ神経回路がウィリアムズ症候群の子どもたちには欠けているようです。

ウィリアムズ症候群の原因は何ですか?

ウィリアムズ症候群は7番染色体から約25個の遺伝子が欠失したことが原因です。欠失は精子細胞や卵細胞を作るときに偶発的に起こります。ヒトのゲノムには2万個から2万5千個の遺伝子がありますが、わずか25個の遺伝子を失っただけで、ヒトの身体や行動や認知の形成に多大な影響が出ます。

なぜこの遺伝子の欠失が人懐こさや抑制無しに社会的行動を取ることにつながるのかはわかっていません。我々の性格の発達は社会的環境と遺伝子(それぞれ存在するか存在しないか)の複雑な相互作用の結果です。

ウィリアムズ症候群であっても無くても、子どもというものはやさしくて心を開いている存在だとあなたが考えているとしたら、あなたは間違っています。タガー−フラスバーグの率いる研究チームはウィリアムズ症候群と正常に発達した子どもたちを長時間にわたってビデオ撮影をして比較しています。

感情移入を調べるある実験で、大人の実験者が机にひざをぶつけて非常に痛がっている表現をしました。研究室の膨大な録画を見ると、正常に発達した子どもたちは、ただ見ているだけで、いっさいの感情移入も感心も示しません。しかし、ウィリアムズ症候群の子どもたちはすぐに実験者のそばに寄ってきて膝をなでながら、「どうしたの」と聞きます。

この感情移入は警戒心の欠如につながります。正常に発達した子どもたちがけむくじゃらで動く蜘蛛のおもちゃに対する反応の記録を見たタガー−フラスバーグは当たり前のごとく言います。「彼らはおもちゃに近づく気がありません。近くに行って触ろうともしないのです。」

ウィリアムズ症候群の子どもたちがそのぞっとする蜘蛛を見せられたときに、ほとんどの子どもがどのような行動をすると思いますか? 彼らはかそれをかわいがるのです。

この警戒心の欠如が恐ろしい出来事にもつながっています。別の実験で、タガー−フラスバーグは見知らぬ人間を部屋に入れました。単に知らない人というだけではなく、野球帽をかぶり濃い色のサングラスをしていました。皆さんが予想されるとおり、普通の子どもたちは厄介者であるかのごとくその見知らぬ人を避けました。ところが、ウィリアムズ症候群の子どもたちはその人に話しかけたり、一人の子どもにいたってはおもちゃを見せて一緒に遊ぼうとさえしました。

このような抑制無しに社会的行動を取ることや無邪気さは実生活で重大な結果引き起こします。そしてこの傾向はウィリアムズ症候群の場合大人になっても続きます。

ニュージャージー州のウェストウッドに住むケリー・マーチン(Kelley Martin、34歳)はウィリアムズ症候群です。彼女はいわゆる「友だち」からいじめられていて、友だちの分のお金を払わされていました。ケリーの母親アン(Anne)が気がついたときには、すでに合計1,500ドルになっていました。

「怖いことです」と、アン・マーチンは番組20/20で語りました。「もし気にかける人が誰もいなければ、彼女にどんなことが起こるか想像できるからです」。

ウィリアムズ症候群には重篤な疾患が合併します

人懐こさと警戒心の欠如は別にして、ウィリアムズ症候群の人は身体的疾患を有することが多く、それには重篤な心疾患が含まれます。この病気があるためにウィリアムズ症候群の成人は50歳代までしか生きられないことが多いのです。

ミッシェル・セルフ(Michelle Self)の息子のアレックス(Alex)は生後4週目にウィリアムズ症候群と診断されました。

「息子は赤ちゃんのときに心臓の手術を受けました」と、セルフは番組20/20で語ります。「去年、ステントを2箇所に入れました。その手術の最中に脳卒中を起こしました。9歳で脳卒中を起こした息子を持つことになったのです。息子には、話すこと、歩くこと、手の使い方をもう一度教えなければなりませんでした。」

11歳になったアレックスは、自転車を乗りこなし、ドラムとピアノを弾き、普通学級に通っています。



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