We thank Ms. Terry Monkaba for editorial comments.
この記事は1997年5月5日、カリフォルニア州の新聞、オレンジ郡レジスター紙
に掲載された。
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予想もしなかったような才能がある
ハワード&シルビア レンホフ
Salk研究所のクリスマスパーティで娘の歌を聞くたびに、「才能とは、生まれつきの
欠陥みたいなものだと思う」と、故ジョナス・ソーク博士は言っていた。しかし、世間一般
に精神遅滞の人々は「4つのF」というような仕事しかできないというイメージがある。「4
つのF」とは、 Food (皿洗い)・Flowers (花の手入れや庭仕事)・Folding(レストランで
のナプキン折りやホテルのメイドのシーツたたみ)・ Filth (清掃作業など)である。
私たちもソーク博士は正しいと信じている。精神障害のタイプや程度にもよるが、精
神遅滞と分類されている人の多くの人がいろいろな才能を持っており、その中には普通の知
性を持つ人よりも優れている可能性もある。そのような精神遅滞の人々は、トレーニングや
支援や励ましを受けることができれば、彼らの持つ特殊技能を使って自活したり、社会が必
要としている役割を担えるであろう。ウイリアムス症候群を持った娘の精神発達状態に関す
る知見を下敷きにしてこの提案を書いた。
ウイリアムス症候群の原因は受精時に発生し、細胞に含まれる一本の染色体上の特定
の遺伝子群が欠失することである。つまり、両親や人種的な背景には関係なく、同じ「微小
欠失」を持っているために、ウイリアムスの人たちは、同じような身体的・行動的・認知的
障害を持っている。しかし現在、研究者たちは、ウイリアムスの人たちが多くの能力につい
ても共有していることを発見しつつある。ウイリアムス症候群の人たちの認知的・身体的障
害を考えると、その能力は驚異的である。彼らの持つ認知能力や行動に均整がとれていない
ことこそが、ウイリアムスの人々に対する研究者や一般大衆や家族達の興味を集める点であ
る。まず第一に、簡単な足し算や引き算、空間的位置関係、論理的推論、抽象概念などに大
きな問題をかかえているにもかかわらず、「精神遅滞者」としては言語能力の発達度合いが
高い。次に、ウイリアムスの人たちは「喜び」を求めてやまない人々である。彼らは、たい
へん温かく親切な人間性を持ち、他人の気持ちに対して強い共感と理解を示す。最後に、全
体的にみても、多くの人が音楽に対する愛や喜び、そして音楽的才能を示す。
つまり、我々は精神遅滞のように政治的には正しい名前でこの人たちのことを呼ぶべ
きではない。その代わりに、認知能力に極端な長所短所があることから、「精神的不均整」
という分類を使いたい。彼らは、ある分野の能力は非常に劣っているが、別の分野では十分
な能力を持っている。精神遅滞はこの人々を表現するには不正確な言葉である。さらに認知
能力全般にわたって障害を持つと考えられる人々にとっても正しい表現ではない可能性も
ある。ウイリアムスの人々が演奏会で優れた音楽性と感受性を示せば、精神遅滞の人々には
才能が無いという偏見を簡単に払拭することができる。また、認知障害を持った人たちは音
楽のような洗練された特殊技能を使って本質的に自活することはできないという仮説もあ
るが、ウイリアムスの音楽家の両親達の中には、トレーニングと指導を受けた彼らの子供達
は、この仮説を訂正することができると信じている。
精神遅滞を持った人々に対する世間の固定概念を変えるという高い目標に到達する
ために、ウイリアムスの人の両親達のグループ(ウイリアムス症候群財団と協力して)テキ
サス大学サンアントニオ校とマサチューセッツ州タングルウッド近郊のベルボア・テラス音
楽キャンプに認知障害を持った音楽家向けの芸術アカデミーを造ろうとしている。(訳者
注:ベルボアテラス音楽キャンプにおける芸術アカデミーは、1999年中に開校されま
す。)音楽家や演奏家として訓練された後、ウイリアムスの人々はヘルスケア分野で重要な
役割を担ったり、彼らの持つ温かさ・共感・音楽性がもっともいかせるような役割をこなし
たいと願う。彼らは、重度の障害者・社会的弱者・お年寄り・末期疾病の人々を楽しませた
り慰めたりする役割を提供できる。ほとんどのプロの音楽家は、そのような役割を引き受け
るだけの精神的スタミナを持っていないであろう。
まさに達成可能なこの成果が現実のものになれば、我々が最も望んでいない間違った
認識という形で表現される精神的不均整に対する基本的態度に変化が現れるに違いない。そ
の認識は、精神的不均整者を世話する公的機関の専門家や、彼らの両親自身の中にある。不
幸なことだが、地域や州の機関に勤めている専門家達は就任当初から重度の認知障害のケー
スに数多く接し続けているため、認知障害を持った人々は教育や就職の可能性に関して制限
が多いという思い込みがある。同様に、ハンディキャップを持った子供の「できないこと」
に馴れすぎたため、あるいは落胆することを避けたいがために、両親達も子供たちを音楽の
勉強というような挑戦的な分野にチャレンジさせてみようとしない。精神的不均整な人が
「4つのF]を超えた技能で社会に貢献できるということに、専門家達や両親達が納得しな
いかぎり、世間の見方を変えることはできない。
単にウイリアムス症候群のためだけではなく、認知障害を持った人々の隠された興味
や能力を掘り起こす努力を組織的に行うためには、両親や家族だけではなく地域や州の機関
の力が必要である。普通の子供たちにお金のかかる大学教育を受けさせるのと同じように、
両親たちが子供にトレーニングやレッスンを受けさせてあげれば、彼らの技術は広がるであ
ろう。最後に専門家達は彼らのように能力があり訓練された人々を地域社会に紹介し、明ら
かになった技術で自活を始める手助けをしなければいけない。
政府の専門家達への動機づけとして考えてほしいことは、より多くの精神的不均整な
人々が収入の多い職業に就けば就くほど、より多くの公費節約と税収拡大が期待できるとい
うことである。