「ナイトライン」の原稿



1998年10月9日、アメリカのABCの番組Nightlineでウイリアムス症候群に関連す るテーマが取り上げられました。下記はその番組の一部分(ウイリアムス症候群に関する 所)を抜き出したものです。原文はホームページに掲載されています。

(1998年11月)

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1998年10月9日「ナイトライン」の原稿

以下は、自分の子供の障害を理解しようとしている2人の科学者を取り上げたテレビ番組 「 Nightline(ナイトライン)」(1998年10月9日に放映)の原稿の一部である。グ ロリア・レンホフ( Gloria Lenhoff )によるアコーディオンの演奏と叙情あふれるソプ ラノの歌声はこの原稿からカットされている。グロリアの歌を録音したオーディオテープ を入手したい方は「Multimedia」のページを参照。


ナイトラインから( From NIGHTLINE:)

2人の父親、2人の科学者:父親の愛情:どれだけやっても十分ではない。

1998年10月9日(金)

(ABCニュースが作製した原稿(未編集・未校正のもの)から抜き出した。ここに掲載 されている原稿は、ウイリアムス症候群に無関係な部分は省かれている。)


アナウンサー:
ナイトラインの金曜特集の時間です。
テッド・コペル( TED KOPPEL,ABCNEWS ):
(声)子供が生まれれば、人はいろいろな夢を 持ちます。しかし、「道路を横切ること」というような単純なことがその夢がある人 もいます。
シルビア・レンホフ( SYLVIA LENHOFF ):
彼女は、自分自身と車の距離や、自分と目の前 の歩道との距離を判断できないのです。
テッド・コペル:
(声)あるいは散髪をしてもらうこと。2人の優秀な科学者にとっての夢 は自分達の子供を助けることです。
バリー・ゴードン医師( DR BARRY GORDON ):
どんなに小さな事でも、できることはやろ うとしています。
テッド・コペル:
(声)今夜は、父親の愛情。なんでもしてあげられるけれども、まだ十分 ではありません。
ABCニュースのアナウンサー:
ご覧の番組はナイトラインです。テッド・コペルがワシント ンからレポートします。
テッド・コペル:
皆さんは自分達の子供にはあまり重い荷物(期待)を背負わせない様に しておられるかもしれません。しかし、あなたがどのような考え方をしようとも、子 供達はあなた自身の名声への切符なのです。ごく普通の親達が感じるもっとも大きな 不満は、子供達が自分と同じ過ちを犯すことを回避できないことです。さらに子供達 には自分達より賢く、強く、幸せで、良い暮らしをしてほしいと願います。ある意味 で自分達の失敗を償ってほしいのです。しかし、いつもそんなにうまくゆくはずがあ りません。ときには、その目標に近づくことさえできないこともあります。今夜は、 夢を持つことさえかなわない2組の家族を紹介します。2人の科学者、ひとりは医者 でもう一人は引退した生物学の大学教授、はそれぞれ脳の病気による障害を持つ子供 がいます。普通の環境であれば、医者は自分の家族、とりわけ自分の子供の治療は行 わないものです。これからロバート・クルーウィッチ( Robert Krulwich )がこの 2家族の生活を紹介しますが、彼等の置かれた状況はとても普通ではないことがおわ かりいただけるでしょう。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)アメリカの反対側、カリフォルニア州コスタ・メサ( Costa Mesa )には、もう一つの家族が住んでいます。父親は科学者で、同じく脳に病気を 持つ子供がいます。
ハワード・レンホフ博士( DR. HOWARD LENHOFF ):
おわかりのように、グロリアはクラシ ック音楽向けのトレーニングで鍛えられたすばらしい声を持っています。私が気に入 っている曲の一つに“Oh Mio Babino Caro”があります。どういう意味だったかな、 グロリア?
グロリア・レンホフ:
おお、我が愛する父よ。
ハワード・レンホフ博士:
ああ、ありがとう。そうだね。イタリアの曲で、作者はだれだ ったかな?
グロリア・レンホフ:
プッチーニ(グロリアの歌が続く)
ロバート・クルーウィッチ:
(声)あらためてグロリアを見ても、明らかな障害は見出せま せん。彼女は外国語の美しいアリアを暗譜で歌っています。しかし、彼女にとっては 靴の紐を結んだり、自分の名前を書くことは難しいのです。(インタビュー)今グロ リアは10から7を引くと3になることを理解していますか?
ハワード・レンホフ博士:
グロリアは引き算はできません。
ロバート・クルーウィッチ:
できない?
ハワード・レンホフ博士:
ええ。1や2ならできるでしょう。でも、引き算はできません。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)グロリアはウイリアムス症候群とよばれる病気です。遺 伝子の微細な間違いに端を発しており、風変わりな症状があります。
お客その1:
ハーイ、とてもいい曲だね。
グロリア・レンホフ:
ありがとう。
お客その1:
あなたの声はとても美しい。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)そうです。でも、グロリアの知能指数は65しかありま せん。
ハワード・レンホフ博士:
そのために、専門家は彼等を一まとめにして精神遅滞の範疇に 入れてしまいます。最初はみんなそう言われるのです。しかし、私たちは彼等の持っ ている長所に気が付きました。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)その長所のひとつとして「娘はとても音楽的である」と ハワード・レンホフは言います。彼女は25ヶ国語で2000曲の歌を記憶していま す。何年か前に自分がそうだったように、科学者として見れば彼女には何かが欠けて います。しかし、自分の娘には何か特別なものも存在するとハワードは言いました。 この才能は彼女が生活費を稼ぎ暮らしていくために使えるかもしれません。そこで、 彼は娘を励まし続けました。彼女には理解できないことがまだまだたくさんあります が、ハワードには時間が残されていません。彼は70才なのです。
ハワード・レンホフ博士:
これは重大な問題なのです。一番気にかかっていることは何か という質問を障害児の親に聞くと、我々が死んだ後子供がどうなるかということだと 全員が答えるでしょう。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)ここに2人の科学者である父親がいます。ひとりは定年 を迎えた生物学の大学教授であり、可能ならば自分の娘に自活に少しでも近づく方法 を教えようとしています。もう一人はもっと若い父親で、可能ならば外の世界との交 流を少しでも持たせようとしています。両者とも皆さんが書物から得られるであろう 知識は勿論、それ以上に知り尽くしていますが、それで十分でしょうか?

(コマーシャル)

ロバート・クルーウィッチ:
あなたの娘さんのユダヤ教の成人式( bar mitzvah )につい て尋ねてみたいと思っていました。(声)グロリア・レンホフが43年前に生まれた 時、彼女の両親は生まれつき音楽の才能があることや、たくさんの曲を記憶できるこ となど考えもしませんでした。実際に、彼女は13才になって成人の堅信礼 (religious confirmation)を受けたとき、礼拝に集まった人たちの前で立ち上がり 聖書の一節を歌い始めました。
バリー・ゴードン:
ずいぶんと前にそのことを思い出しました。
ハワード・レンホフ博士:
彼女がそのような役割をやるとは思ってもいなかったので、ち ょっと困惑しました。それで、私たちは夕方小さな教会に友人達だけを集めて特別な 集まりをもちました。来たい人を全員呼んだわけではありません。結局全員が家族と 友人達でした。
ロバート・クルーウィッチ:
失敗することを恐れてはいませんでしたか?
ハワード・レンホフ博士:
はい。私自身は心配でした。あなたがそう思われるかどうかは わかりませんが…。
ロバート・クルーウィッチ:
あがることはありますか?
ハワード・レンホフ博士:
彼女にはありません。私にはあります。
ロバート・クルーウィッチ:
うまくいきましたか? 彼女の歌はどうでしたか?
ハワード・レンホフ博士:
まったく失敗しませんでした。
シルビア・レンホフ:
うまくいったということです。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)いまでもうまくいっています
グロリア・レンホフ:
その曲を少し歌ってあげます。(ソロモンの雅歌(Song of Songs)か らヘブライ語の曲を歌う。)
ロバート・クルーウィッチ:
そう、私が頼んだのはほんの一部分なのです。(声)彼女が歌 を修得してずっと覚えていられるという事実がハワードを驚かせ、他にも何か出来る ことがあるのではないかと考えました。彼女のような人は他にもいるのだろうか? ウイリアムス症候群の子供がたくさんいることがわかって、ハワードは年に一度開催 される一週間のサマーキャンプを創設しました。グロリアのためでもあります。その キャンプで彼女は歌のリーダや教師役を務めます。ここに行けばウイリアムス症候群 をもっと知ることができます。
ハワード・レンホフ博士:
「レ」の音を出してみて。
アレック:
「レー」
ロバート・クルーウィッチ:
(声)例えばアレックは絶対音感を持っています。単音や一連 の音を弾いてあげると…。
ハワード・レンホフ博士:
3つの音を一緒に弾くよ、いいかい?
アレック:
ドとファとラ。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)「通常ではきわめて稀な能力だが、多くのウイリアムス の子供にはこの能力がある」とハワードは言います。アレックはごく幼い時にできる ようになりました。
アレック:
2.5ヶ月くらいから。
ロバート・クルーウィッチ:
まさか!
アレックの母親:
間違いありません。
ロバート・クルーウィッチ:
それを知っているということは、あなたは彼の…
アレックの母親:
母親です。
ロバート・クルーウィッチ:
オー
アレックの母親:
彼はウーと言っていました。私が曲をもういちど演奏すると彼は音程を 合わせていました。それで…
ロバート・クルーウィッチ:
(声)ウイリアムスの人々には並外れた不思議な能力がありま すが、障害も謎に包まれたところがあります。グロリアにかなえてあげられることが 一つだけあるとすれば、あるいは一つだけもっと上手にできるようになればいいと思 うことがあればなんですか、とハワードと妻のシルビアに聞いてみました。
シルビア・レンホフ:
安全に道路を横切ることです。
グロリア・レンホフ:
道路を横断していて車に轢かれてひどく打ち付けられ、片腕と片足 が折れたことを覚えています。道路上に引き倒され意識を失いました。とても惨めで した。
ロバート・クルーウィッチ:
車がぶつかってくるのが見えましたか?
グロリア・レンホフ:
ええ、見えました。
ロバート・クルーウィッチ:
彼女は車が見えていましたが、距離を正確に判断できません でした。その事故以来、一人で外出させることが怖いとハワードは言います。それで いつも彼が車で送ります。彼が演奏会の荷造りをします。彼女の演奏会には必ず彼が 付き添っています。そして、彼は今ウイリアムスの子供達の為に大学の中に住み込み のコミュニティを作るために募金を集めています。これも自分の娘の安全を守るため なのです。

(コマーシャル)

ロバート・クルーウィッチ:
ハワードも同じです。これまでもずっとそうだったように、 色々な意味でグロリアはミステリーです
ハワード・レンホフ博士:
彼女は夜に色々と考え事をしているようですが、彼女の心の中 にあることは、我々は決して理解できないでしょう。
ロバート・クルーウィッチ:
グロリアの脳は我々の想像以上に他の人の脳と異なっていま す。しかし、生物学者であるハワードにとっては、今はまさに始まりなのです。彼は 科学者の集まりでグロリアについて話します。彼は他の科学者達にグロリアの症状を 調査するように促します。なぜそれほどまでに音楽性が豊かなのか? これほど違っ ているのはどうのような脳になっているのか?
ハワード・レンホフ博士:
グロリアは国の宝だと、何時も私は感じています。
ロバート・クルーウィッチ:
(声)娘が知的なパズルのような存在であることを喜ぶことも、 父親として子供を自慢する形の一つです。しかし、それは子供との間に一線を引くこ とでもあります。(インタビュー)父親としては少しさびしくありませんか?
ハワード・レンホフ博士:
ちょっとさびしいですね。
ロバート・クルーウィッチ:
ハワード・レンホフやバリー・ゴードンが父親でもあり科学 者でもあること、そばに居ること、一線を画すこと、それは難しいことです。その距 離や科学は少しは助けになります。しかし、私のようにあなたたちが少しの間彼らと 会っていれば、彼らは紛れも無く父親であり愛情にあふれていることにすぐに気が付 くでしょう。ナイトラインのロバート・クルーウィッチでした。
テッド・コペル:
締めくくりのためにすぐに戻ってきます。

(コマーシャル)

テッド・コペル:
アルコール依存の友人が、彼がかつて参加していたサポートグループの 話をしてくれました。参加者の一人が最近状態が非常に悪いと語っていました。グル ープのリーダが、「気にすることはありません。賢明なる神はあなたの手におえない ような重荷はあたえません。」 そう、その男はため息をついて、「神は私にその自信 を与えてくれないことを望みます。」 神は、バリー&レーン・ゴードンと、ハワード &シルビア・レンホフにはあまりある自信を与えたに違いありません。それはまさし く適材適所です。番組の冒頭で述べたように、我々は自分自身と我が子達の幸せを求 めていますが、私たちを成長させてくれるものは幸せではなく、挑戦することです。 今夜の特集はこれで終わります。ワシントンからテッド・コペルでした

これでABCニュースを終わります。おやすみなさい。

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番組のビデオカセットはABCニュースから直接購入することができます。詳しくはホー ムページの「マルチメディア」の項目を見てください。

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訳者注:
Bar Mitzvah:(女性はBat Mitzvah という)
ユダヤ教の通過儀礼のひとつで成人式のこと。単語の文字どおりの意味は「戒律 の息子」。宗派で違いがあるが、一般的には男性は13才、女性は12才で大人と して認められ、ユダヤ教の戒律を守ることを義務づけられるとともに、結婚や契 約が可能になり、親はその子の罪の責任を免れるようになる。宗教的儀式の後、 教会に人を集めて披露を行うことが多く、本人がスピーチをしたり聖書を朗読し たりする。


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