世界で一番不思議な歌
ウィリアムズ症候群の女性グロリア・レンホフ(Gloria Lenhoff)の物語です。ウィリアムズ症候群に関する情報と、ご両親の思い出が書かれています。本の原題は「The (Strangest) Song: One Father's Quest to Help His Daughter Find Her Voice」です。この本に関することはここにも書かれています。
(2007年3月)
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グロリア・レンホフは1ドル払ってもらうお釣りや12から5を引く計算ができないし、右と左がわからない。さらに道を横切ることも、他人に読める字で自分の名前を書くことも、楽譜を読むこともできない。
しかし、グロリア・レンホフは世界中どこにも見当たらないような歌手である。彼女はクラシック音楽の訓練を受けた優れた技量を持つソプラノ歌手であり、数百曲のレパートリーがある。それらの歌はイタリア語・フランス語・ドイツ語・日本語・中国語・マケドニア語・韓国語・ハンガリー語・イディッシュ語を初めとして多岐に渡る。彼女は楽譜が読めないため、一つ一つの音・それぞれの歌詞・各ニュアンスはすべて彼女の脳に記憶されている。その脳はあなたや私の脳の80%の大きさしかない。
ハワード・レンホフ(Howard Lenhoff)とシルビア(Sylvia)夫妻は1955年に初めての子どもの誕生を祝い、自分達の子どもにごく普通の期待と夢を抱いた。しかし、ハーバード大学の歴史学修士であるシルビアと生物学研究者であるハワードは、赤ん坊のグロリアを育てることが簡単ではないことを知ることになる。
早産で産まれて体重が5.5ポンドしかなかったグロリアはなかなか大きくならなかった。医師はグロリアが健康体だと診断したが、乳児期にはほとんどの成長の目安に遅れた。しかし、ハワードは自分がギターを弾くとグロリアが大喜びの様子で座って、彼女のかわいい鼻がフレットボードに触れそうになるほど真剣にギターの音色に聞き入ることに気がついていた。
グロリアが成長しても医師団は確定診断ができないでいた。レンホフ家の人々は彼女が33歳になってやっと、グロリアの小さな上向きの鼻ととんがった顎、身長が伸びず知的成長が遅れていること、熱狂的な性格と音楽に対するすばらしい適性能力などの原因となった診断名を知らされることになる。
ウィリアムズ症候群(Williams syndrome)は稀な染色体異常疾患で、およそ7500回の出産に1回の割合で発生する。この病気は一本の染色体からごくわずかの遺伝子が欠けるという欠失が原因でおきるが、このほんのわずかの変化が体や脳や性格などに対して多大な犠牲を強いる。その結果として通常と異なる身体、まったく均整がとれていない心、そして驚くほどの音楽的才能が与えられる。
「世界で一番不思議な歌」はウィリアムズ症候群と、その病気の人の多くに見られる並外れた音楽性を伝える初めての本である。科学的な話題と個人的な物語を織り交ぜながら、ジャーナリストのテリー・スフォルザ(Teri Sforza)はハワード・レンホフが知的障害を持つ娘を助ける方法を探し続けた経緯を伝える。ハワードがグロリアの持つすばらしい声の才能と音楽的能力を発見して以来、娘と同じ病気を持つ人はその深刻な精神的障害にかかわらず音楽を勉強できる稀にみる能力を有していることを心から信じるようになった。最初は拒絶され反対意見を述べられたりしたが、ついにハワードは科学者や自分自身が行った公式な研究成果によってこの「思いつき」が正しいことを証明した。
「ウィリアムズ症候群について詳しく研究すると、知能指数が低いことがすばらしい能力の存在を覆い隠している可能性が見えてきます」と、ハワードとその共同研究者は結論付ける。「そして、このことは他のいわゆる精神遅滞と言われている人々にも、気づかれていない才能が眠っている可能性があることを示唆しています。彼らを訓練・育成するために科学者や社会が労を惜しまずに取り組んで初めてその才能が芽を出すのです。」
彼のひたむきな努力と娘への愛情により、ハワードはグロリアに考えもしなかったような成果をもたした。グロリアはワシントンにあるケネディセンターやカリフォルニアからニューヨークまで広い範囲の有名なオペラハウスやコンサートホールでソリストとして公演を行い、彼女の歌を中心に録音されたCDも数多い。さらに、ハワードは知的障害をもつ音楽家達にグロリアのようになるチャンスを与えるために、寄宿型のアカデミーをアメリカ国内で初めてマサチューセッツに設立することに尽力した。
人々の興味と科学のブレイクスルーをうまく結びつけることに成功したこの本によって、脳の不思議に関する洞察力を刺激する機会が提供され、科学者が障害者を手助けする新たな方法を見つけ出すことが期待できる。
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