自立への一歩:通勤寮の見学
息子はもうすぐ27歳。特例子会社で働きはじめて8年が過ぎました。突然休むことも、交通事情以外で遅刻することもなく、楽しそうに仕事に通っています。稼いだお金で、友人とプロレスや野球の試合を見に行ったり、療育キャンプに出かけたりと、余暇も楽しんでいます。最近になってタブレットを買ってLINEも始めました。ただし、通信料を考えてネットワークは自宅内のWiFiだけを利用することが条件です。
日々の暮らしは安定してきました。あとは親がいなくなったときに備えて、一人暮らしの準備が必要だと考えていましたが、本人と話してみても、「まだ早い」と言って、その気になりません。進展がないまま成人して7年間が過ぎようとしていました。ところがあることがきっかけで、一歩を踏み出すことになりました。
東京都には「通勤寮」という都から委譲されて社会福祉法人が運営をしている施設があります。この寮は「寮生活を通して、就労の安定、周りの人との関係や休みの日の使い方、日頃の自分の生活、健康管理に関することなど、地域で暮らす力が身につくよう自立に必要な援助を本人に解るようにアドバイスし、時には一緒になって行いながら、社会的な自立を図ることを目的としています」という施設で、「愛の手帳」を所有していて働いている知的障害者を対象としています。入寮して2年の間(最長3年まで延長可能)に自立に必要なスキルを身につけます。その後はグループホームなどに移って一人暮らしを始めることが多いようです。都内に寮は6か所ありますが、自宅や職場に近いことから立川通勤寮に入ることを考えはじめました。
まずは見学が必要だとのことなので、6月の初めの日曜日に妻と息子と3人で出かけました。温厚そうな寮長さんが対応してくださり、寮内は、スタッフの若い女性が案内してくれました。寮の定員は男性20人、女性10人と男女混合なので、スタッフも男女両方います。建物は鉄筋コンクリート製の3階建て、一階が食堂、二階にスタッフが常駐する管理室や娯楽室などがあり、二階と三階が居住区で、予想していたよりずいぶんときれいでした。居室は基本的に2人部屋ですが、最近部屋の改造を行っていて、部屋の中央に仕切り棚がしつらえてあって、空間的には一人部屋に見えます。風呂場には洗濯機もおいてあり、自分で洗濯をします。食事は作ってもらえますが、食べ終わった後の食器は自分で洗うとのことでした。スタッフが24時間常駐して、生活面でいろいろサポートしてくれます。お金も、自分で利用計画を立てて、必要な都度もらう(通帳の管理はスタッフが行う)ことになるようです。寮長の話では、今は満室で入れないが秋口には空きが出る可能性があるので、入るとすればそれからになるとのこと。費用としては、食費と光熱水費は自己負担ですが、サービス利用負担金額は原則(本人の所得がとても高ければ別ですが・・・)無料、障害者総合支援法に基づいた障害福祉サービスの一環としてまかなわれるようです。土日には自宅に帰って日曜の夜に寮に戻る寮生もいますが、休日を寮の仲間と過ごす人も多いようです。
見学の最後に寮長の口から決定的な一言が出ました。「1か月の体験入寮」制度があり、まずは1か間暮らしてみて、本格的に入寮するかどうかはそれから決めても良いし、入寮期間も2年より短い人もいると言われました。このことを聞くまで、息子は入寮する気はまったくなかった(両親がうるさく言うから、仕方なく見学にきただけ)のですが、俄然その気になったようです。部屋や建物が「ボロ」ではなかったこと、スタッフの女性がきれいだったことなども追い風でした。
1時間程で見学は終わりましたが、次のステップとして、「入寮申込書」を書いて入寮の申込を行い通勤寮の面接を受けること、障害福祉サービスを受けるための申込を市役所に対して行い審査を受けて(ここでも面接があるとのこと)受給者証を受け取ることの二つが必要です。前者は、仕事や余暇、病状など現在の状況を申込書に書いて提出し、面接が7月の終わりに指定されました。申込書に書かれたことを本人に確認する様な内容で、簡単に終わりました。後者は市役所に行って申し込みをしましたが、今時点で通勤寮が満室なので空きが出てから手続きを進めることになりました。年明け以降になりそうです。
(2016年9月作成。杉本雅彦)
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