ウイリアムス症候群に関する医学的ガイドライン




この小冊子は、米国のWilliams Syndrome AssociationのMs.Terry Monkaba氏さんの許 諾を得て、下記の原典を訳したものです。訳に関する間違いは、 杉本 まで御連絡下さい。このガイドラインを医療関係者に渡すときに は、必ず英語の原文を添えていただくようにお願します。

(1997.3.4 作成) (1997.5.7 修正) (1997.7.10 修正)



Medical Guidelines For Williams Syndrome

By Barbara Pober, M.D., Frank Greenberg, M.D., Paige Kaplan, M.D., Ronald Lacro, M.D., Martin Levinson, M.D., Colleen Morris, M.D., Paul Wang, M.D.

数多くのウイリアムスの人々を見てきた複数の内科医グループからの情報を基礎として、 下記のウイリアムス症候群に関する医学的モニタリングガイドラインを作成しました。実 際のデータに基づく勧告も一部にはありますが、大部分はグループのメンバーの臨床経験 を基に作成されています。いくかのケースでは、勧告を作成するに足るような適切なデー タも経験もない場合があります。その部分には、その旨が明記してあります。ここで提案 されていることはあくまでも勧告であって、ウイリアムスの子供・青年・大人それぞれの 個人に合った診療が必要なことを認識しておいてください。

基礎的検診:ウイリアムス症候群と診断された場合、その時の年齢にかかわらず下記の 検診を行なう事を勧めます。

継続的な看護とモニター:ウイリアムス症候群は、いろいろな部分に影響がでる病気 です。時間経過とともに、治療が必要な問題が新たに発生したり進行したりすることがあ る事を、ウイリアムスの人々を診ている内科医は、よく知っておかなければいけません。 つまり、ウイリアムス症候群は定常状態が続くわけではなく、継続的なモニターが必要な 病気なのです。

眼:前に述べたように、全員に基本的眼科検査を実施するよう勧めます。斜視はウイリア ムス症候群によく見られますが、軽度なこともあります。遠視もウイリアムス症候群に共 通的に見られるようで、注意が必要です。眼科医の指示に従って、経過観察を続ける事が 必要です。

耳鼻咽喉:繰り返し中耳炎を起こす傾向が見られます。耳の感染症を繰返すような時は、 耳鼻咽喉科医に相談してください。その際には、聴力のスクリーニングを受けてください。

歯:ウイリアムスの子供は、定期的に歯の治療を受けて下さい。不正こう合(注)もよく 見られます。8才から10才に達したら、矯正歯科医に相談して下さい。

甲状腺:少数ですがウイリアムスの人々の中に、甲状腺の病気(大部分は甲状腺の機能低 下)が見られます。5才を過ぎたら、一度甲状腺の検査をするように勧めます。その後も、 スクリーニングの結果に異常が無いか、その他の症状が無いかを調べるために、甲状腺機 能検査を受けてください。

成長:ウイリアムス症候群発育曲線(注)を使って、身長・体重・頭囲を確認してくださ い。成長が遅れること(ウイリアムス症候群発育曲線の正常領域から下に外れること)は ウイリアムス症候群では多くはありません。その場合は、他の子供と同じ様に原因を調査 することが必要です。

心臓:ウイリアムス症候群では、循環器系の病気が進行することがあります。過去の検査 で異常がなくても臨床的に重大な病気が発生することがあります。そのため、ウイリアム スの人は定期的な検査を受けることが必要です。最適な心臓検査の頻度を指示することは できません。ガイドラインとしては、診断の時点で、ドップラー血流検査と断層心エコー を含む基本的な心臓機能検査を受ける事を勧めます。重大な循環器系の病気を指摘されて いる場合は、心臓専門医によるフォローが必要です。心臓に全く問題がないか、あっても 軽微な5才以下の子供の場合は、心臓専門医による年一回の定期的診察を受ける事を勧め ます。途中で心雑音が出てきた場合、その時点で断層心エコーを行う必要があります。5 才以上で循環器系に問題が無い場合でも、心臓専門医による定期的な検査を受ける事を勧 めます。

ウイリアムスの子供も大人も、同年代の人より一般的に高血圧が発生しやすい傾向 にあります。また、年齢とともに高血圧になる危険性も高くなります。基礎検査の時と心 臓専門医を訪れる度に、四肢の血圧測定をしてください。最低でも年一回、かかりつけの 内科医で両腕の血圧をチェックしてください。

胃腸:ウイリアムス症候群では、胃の内容物の逆流がよく見られます。食事をいやがった り嘔吐という形で現れることもあります。この逆流が、発作的な腹痛の原因だと考えられ る場合もあります。これらの症状が顕著に現れたり長く続く場合は、胃の内容物の逆流が 無いかどうか調べてみる事を勧めます。慢性の便秘もウイリアムス症候群によく見られる ようです。便秘を防止したり最小限にするために、食事療法を行なう事を強く勧めます。

直腸脱(注)が、ウイリアムスの人の 10-15% に発生し、便秘によって悪化する可 能性があります。腹痛がひどい場合や長く続く場合は、胃腸専門医に相談してみるとよい かもしれません。青年期以降のウイリアムスの人が腹痛を起こす場合は、憩室症(注)と 憩室炎の可能性を考えるべきです。

カルシウム:口から摂取されるカルシウムが、ウイリアムス症候群にどのような影響を 与えるかについてはよく判っていません。高カルシウム血症は、神経過敏・嘔吐・便秘・ 筋肉の痙攣を引き起こします。高カルシウム血症は幼児期によく見られますが、青年期以 降に進行したり再発することがあります。そのため、診断の時に血液中のカルシウムを検 査するように勧めます。血液中のトータル・カルシウム量に異常があれば、高カルシウム 血症による症状が進行したときのみ、再スクリーニング検査をしてくだい。

また、診断の時にスポット的な尿検査を行い、尿中のカルシウム/クレアチニン比 を調べる事を勧めます。最初の尿中のカルシウム/クレアチニン比が正常であれば、この 検査は数年に一度(頻度は決められませんが)実施して下さい。

ランダムに採取されたスポットサンプルによる高カルシウム尿症(尿中のカルシウ ム量の増加)の判定値は次のようなものです。

一回の尿検査で高カルシウム尿症と判定されたら、朝と夕方の尿サンプルを使って 2回再検査を行なうことを勧めます。24時間尿を使ってカルシウム/クレアチニン比と全 カルシウム排泄量を調べることが理想的ですが、幼くて非協力的な患者には向きません。 慢性的な高カルシウム尿症だと診断されたら、血中の全カルシウム量の再検査と、腎石灰 症(注)のチェックを目的とした超音波による腎臓の検査を受けて下さい。経験をつんだ 栄養士によるカルシウムとビタミンDの摂取量評価をしてもらいましょう。カルシウムの 取り過ぎにもかかわらず腎石灰症が見られない場合、カルシウムの一日の摂取量の上限を 超えないような食事に変える事を勧めます。高カルシウム尿症が続いたり、高カルシウム 血症や腎石灰症だという検査結果が出た場合は、腎臓病専門医に以後の管理方法を相談す るように勧めます。しかし、現時点では、高カルシウム尿症だけに関して合意された治療 方針が無い事に注意して下さい。

小児用複合ビタミン剤はすべてビタミンDを含んでいます。このため、ウイリアム スの人は複合ビタミン剤を服用しないことを勧めます。

腎臓:ウイリアムス症候群には、腎臓の異常が高い確率で見られるので、基本的な腎臓と 膀胱の超音波検査を受けることを勧めます。腎臓病や高カルシウム尿症の兆候が見られな い場合に、超音波検査を繰返し行なうことが必要かどうかは判っていません。子供につい ては、小児科治療の一貫として1〜2年に1回、尿分析をして下さい。ウイリアムスの大 人については、血液中のクレアチニンとBUN(血液尿素窒素)レベルを、定期的に(頻繁に 行う必要はありません)フォローして下さい。

下記のような兆候がある場合にだけ、排尿膀胱尿道撮影(注)を実施して下さい。

筋肉・骨格:ウイリアムス症候群には、進行性の関節拘縮がしばしばおこります。その ため、全員3才までに理学療法による評価を受けるようにしてください。また、筋肉や関 節の拘縮が発生したら再度評価してもらうことが必要です。療育プログラムの一項目とし て、関節の稼動範囲を定期的に観察してください。いつまでも「よちよち歩き」がなおら ない場合は、理学療法士や整形外科医に診てもらってください。「とう骨尺骨融合症」(前 腕のひねりや回転が制限される。X線写真で兆候が確認できる場合と、何も兆候が見られ ない場合がある。)は、時間とともに変化することはなく、手術や治療は必要ありません。

神経系:ウイリアムス症候群には、筋の緊張の増加と反射こう進(下肢に顕著に現れる) がよく見られます。しかし、急に状態が変化するかどうかや、神経検査をするがどうかに ついては、今後調査をする必要があります。

精神医学:学齢期になったウイリアムスの子供は、「集中力不足による多動」と言われ る事が多いようです。Ritalin (注) のような刺激性の薬の投薬が効果があるという事例があ ります。

  青年期以降のウイリアムスの人には、極度の不安を訴えたり、「うつ」傾向を示すこ とがあると報告されています。成人したウイリアムスの人の家族や精神科医は、これらの 初期症状に注意を払い、適切な治療を受けさせるようにしてください。