最近の研究から



以下は、WSAのニュースレターに掲載されていた最近の研究成果の紹介です。

(1999年11月)

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Research Update

"Heart to Heart" Volume 16 Number 3 September 1999, Page 3-4

イギリスのウィリアムズ症候群財団(Williams Syndrome Foundation Ltd.=WSF Ltd.)のニュースレターである「Williams News」に、イギリスで行われているウィリアム ズ症候群に関する最近の研究プロジェクトの特集が掲載された。これらの研究者の多くは ディアボーン(Dearborn,アメリカ)で2000年に開催される専門家会議で概要を述べるかポ スターを展示するだろう。いくつかの研究の内容を以下に掲載する。

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ウィリアムズ症候群の子どもの聴覚知覚

Auditory Perception in Children with Williams Syndrome

Jill Boucher, Honorary Professor,
Dept. of Psychology, University of Warwich

本研究は、ウィリアムズ症候群の人が持っている、すばらしい時間感覚やタイミング の取り方やリズム感などという、「虫の知らせ“hunch”」について調査している。研究チー ムは、非常にきめ細かくタイミングを取る能力やリズム感を持つ事が、言語獲得や短期記 憶、さらには非言語コミュニケーションに優れている重要な要素だと信じている。「ウィリ アムズ症候群の人は言語・非言語の両コミュニケーション能力が優れており、短期記憶能 力もかなり優れている。しかし、脳が持っているきめの細かくタイミングを取る能力の負 の面として、聴覚過敏症になりやすいと思われる。我々はこれらについて調査している。」

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ウィリアムズ症候群においては空間視認知の全機能が同じように障害を受けているか?

Are All Aspects of Visuo-spatial Cognition Equally Impaired in Williams Syndrome?

Emily Farran, PhD. Candidate, Dr. Chris Jarrold, Prof. Sue Gathercole

ファラン女史はウィリアムズ症候群の人が空間視課題で見せる不均等な成績に興味を 持った。各個人が課題を遂行する時に使用する処理方法のタイプに関係している可能性が ある。彼女は、対象物の一部を見る行為も局所的処理手順に含まれていると述べている。 「ウィリアムズ症候群の人は、課題を全体的に処理しないで、部分的に処理する事を多用 している可能性がある。」 異なる空間視課題の成績に差があることに対する2番目の理由 は、2種類の知性に関連しているかもしれない。「流動的知性:Fluid Intelligence」は推量 や問題解決課題に必要な考え方で、より純粋な知性のものさしである。これは脳内の神経 構造とは無関係で、遺伝の影響が大きい。「結晶的知性:Crystallized Intelligence」は文化 的影響を受けるタイプの知性で、経験を通じて発達する。これは学校生活や家庭や文化的 背景に大きく依存する。ブロックデザインやコーディングのような種類の抽象性が高い課 題は流動的知性に依存しており、絵の完成や物体の組み立てのような課題は結晶的知性を 必要とする可能性がある。彼女はこの仮説によって、ウィリアムズ症候群の人は課題グル ープのなかで前者のタイプより後者の成績の方が良い事が説明できると考えている。

ファラン女史はこの分野が重要な研究対象であり、ウィリアムズ症候群の人にとって どの種類の空間視課題が難しいかを調べる事で、教育や訓練方法に関する助言が出来るよ うになる可能性があると述べている。そうすることによって空間視障害を最小限にとどめ、 個人の発達を促す事ができる。

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ウィリアムズ症候群の幼児、児童、成人における数に関する発達のドメイン特定の素因と 結果として起こる脳の特殊化

Domain Specific Predisposition and Subsequent Brain Specialization for Number Development in Infants , Children and Adults with Williams Syndrome

Professor Annette Karmiloff-Smith

これまでの研究の結果、ウィリアムズ症候群の人々は数に関して問題を抱えていると いう明確な証拠が得られている。本プロジェクトの重要な目標の一つは、数に関して持っ ている問題の原因が、学習プロセスそのものにあるのか、数の学習に必要な特定の素因が 無い事にあるのかを確認する事である。さらに詳細に研究する事によって、基礎となる処 理能力を理解し、その能力が幼児から成人までどのように発達していくかを解明できる。 ごく初期の発達異常に注目する事によって、将来は脳の新皮質(neocortical)がまだ大きな可 塑性を持っている時期にいろいろな治療を開始できるようになる。

重要な目的の一つはどの数の原理(例えば、一対一の対応・序数・基数などの原理)を持 ち、どの原理を持っていないかを確認する事である。数に関する能力と読書能力の関連も 調査する予定であり、我々研究者はドメイン間に共通する障害と特定ドメインの障害とを 識別できると期待している。

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ウィリアムズ症候群の成人における感情と行動の問題とニーズ

Emotional and Behavioral Difficulties and Needs of Adult with WS

Dr.Orlee Udwin

これまでに発見されたことは教育ガイドラインや専門雑誌で出版されている。 両親の報告によれば、ウィリアムズ症候群の成人の多くが優れた言語能力を持ち、他 人と社会的接触を始めらる一方で、同じ年齢の人との交友関係を維持できなかったり、自 分自身の親友がいなかったりという困難にも遭遇している。両親達が共通的に持っている 心配として、あまりに親しすぎたり他人を信じすぎる成人の性格的傾向が挙げられる。こ の性格を悪用されたり利用されたりする可能性があるからである。

本研究によれば成人の1/3以上が、異性とのなんらかの関係をもっている。時々、ウィ リアムズ症候群の成人は人気歌手やテレビタレントまたは隣人などに愛情を集中させ、感 情的愛着がこだわりや強迫概念にまで発展すると問題を引き起こす。

ウィリアムズ症候群の人は感情的・精神的障害を起こす傾向がみられる。本研究によ れば成人の多くが強い不安症を持ち、数人が薬物治療を受けている。不安症の引き金は他 の人にとってはささいな事が多い。例えば、新しいイベントへの参加、慣れた手順の変更、 過度の期待がウィリアムズ症候群の成人にかけられるような状況などである。優れた会話 や言語能力が他の認知能力障害を覆い隠して、実際よりも能力が高いという誤解を与える 可能性がある。これは就労環境において、高い水準を求められながらサポートをあまり受 けられない状況に置かれることにつながる。家族の死や新しい住居への引越しなどといっ た生活上の大きな出来事も、場合によっては、一定期間重度の不安症やうつを引き起こす。

ウィリアムズ症候群の成人は共通的に恐怖を覚える対象がたくさんあり、(事例は多 くないが)怖い出来事(風船の破裂、雷など)を避けるために、特定の活動をかたくなに 拒むことがある。成人のおよそ25%は自分の健康状態を過度に心配している。彼らはちょ っとした苦痛や痛みを大げさに考えて、安心する為に何度も医者を訪れる。

没頭したり夢中になったりすることも、本研究対象の成人には良く見られる特徴であ る。対象としては、車・家電製品・動物・将来の出来事・災害・暴力に関するニュース・ 外国などが多い。趣味や興味を持つことを勧めることは必要だが、一方で場合によっては 没頭しすぎて日常生活にまで影響を及ぼす事がある。

うつ(抑うつ症)は共通的に見られるわけではないが、その症状がある場合は精神衛生分 野の専門家の助けが必要である。欲求不満や不安が突発的発作(aggressive outburst)を引き 起こす事が特徴的に多い。貧乏ゆすり・手をこする・皮膚を引っかくなどという繰り返し 動作も報告例が多い。

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