成人期におけるウィリアムズ症候群の医療面
米国のサポート団体(WSA)の会報に掲載された記事です。
(2003年2月)
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Medical Aspects of Williams Syndrome during Adulthood
Barbara R. Pober, MD
Department of Genetics, Yale School of Medicine
(with input from many professionals & families)
"Heart to Heart" Volume 19 Number 3 September 2002, Page 20-22
これまでに刊行されたウィリアムズ症候群成人の医療及び心理に関する数種類の書物によれば症候群さまざまな問題が存在している。つまりウィリアムズ症候群の患者は一生を通じて多くの臓器に障害が発生する可能性がある。
大多数にとって感情的精神的問題が「生活の質」に重大な影響を及ぼす。ウィリアムズ症候群の成人の余命についての研究は行われていないが、60歳代でも元気なウィリアムズ症候群の人が何人存在することが判明している。
成人で影響が出やすい領域
- 耳鼻咽喉系/聴覚系
- 内分泌系
- 歯科系
- 消化器系
- 不安など感情面
- 早老(の可能性)
イェ−ル大学ではここ数年ウィリアムズ症候群の成人を対象とした研究を行っている。30歳以上のウィリアムズ症候群の成人20人(とその家族)を募集し、イェ−ル大学CRCCで2〜3日かけて検査を行う。対象者は男性10人、女性10人で、年齢は31歳から51歳、平均年齢は38.8歳だった。このグループが臨床診断を受けた平均年齢は23歳であった。各被験者は一連の医療・認知・MRI検査を受ける。その結果は次の通りである。
耳鼻咽喉系/聴覚系
成人の耳鼻咽喉系/聴覚系の問題について公表された論文は数件しかない。我々は両親に対して聞き取り調査を行い、標準的聴覚検査を実施した。
- イェ−ル大学で聴覚検査を受けるまで、患者/両親とも聴覚損失にはほとんど気付いていなかった。
- 聴覚過敏は継続的な医療的問題ではない。
- 患者の大部分が耳垢がたまる問題を繰り返す。
- 多くの患者が耳鼻咽喉科での耳垢除去を必要とする。
- 日常生活に悪影響がある。
ウィリアムズ症候群の聴覚曲線
- 正常= 4/20 (20%)
- 軽度〜中度の感音性聴覚損失= 13/20 (65%)
- 異型感音性聴覚損失あるいは混合性聴覚損失= 3/20 (15%)
聴覚レベルの校正は実施してない。
まとめ
- 30歳以上のウィリアムズ症候群成人の大多数は軽度から中度の高音域感音性聴覚損失を経験している。
- この種の聴覚損失は老人性難聴であり普通は加齢と共にあらわれるが、ウィリアムズ症候群では早期老化として現れている可能性がある。
- ウィリアムズ症候群責任領域に存在する遺伝子の欠失が感音性聴覚損失になりやすくしている可能性がある。
- 本研究には継続的調査が欠けている。
- 当グループより低年齢のウィリアムズ症候群患者の聴覚曲線にはこの傾向は見られない。
臨床的関連
- 内科医は聴覚損失を疑いスクリーニングを行う必要がある。
- 中度の高音域聴覚損失は日常生活に悪影響がある。
- 補聴器が有効なウィリアムズ症候群患者も存在する。
- ウィリアムズ症候群の成人には1〜2年に一度聴覚検査を受けることを推奨する。
- 心当たりがあれば早く検査を受けるほうがよい。
- 一度正常なパターンが確認されたら検査間隔を延ばしてもよい。
- 定期的な耳垢除去。
内分泌系
ウィリアムズ症候群について報告されている内分泌系の問題は次の通りである。
- 低成長
- 思春期早発
- 高カルシウム血症
- 甲状腺機能減退
- 糖尿病
甲状腺機能減退
イェール大学で全般的な甲状腺血液検査を受けた52人のウィリアムズ症候群患者関するチャート分析を行った。
- 子ども
- 甲状腺機能減退の発生頻度が高くRxが必要である。
- 無症性甲状腺機能減退(甲状腺は脳からの増産指令(boosted signal)に応じたときのみ十分な量の甲状腺ホルモンを生産している)の発生頻度が高い。
- 成人
- ±甲状腺機能減退の発生頻度が高い。
- 無症性甲状腺機能減退(甲状腺は脳からの増産指令(boosted signal)に応じたときのみ十分な量の甲状腺ホルモンを生産している)の発生頻度が高い。
- 何人かは受ける必要がない無症性甲状腺機能減退の治療を受けていた。
甲状腺スクリーニングに関する勧告
- ウィリアムズ症候群の診断を受けた時の甲状腺機能(TSHを含む)の検査を行う。
- 正常な場合は2〜3年に1回の検査を行う。
- 甲状腺機能減退の場合は、診断に当たって適切な検査を行い、甲状腺ホルモン整復治療を行う。
- 無症性甲状腺機能減退の場合は、内分泌専門医に相談し、定期的な検査を行う。
糖尿病と糖耐性異常
- ウィリアムズ症候群の成人で糖尿病の報告がある。
- 我々の患者関する研究及びオズボーン医師(Dr.Osborne)の「ウィリアムズ症候群における分子遺伝学」から糖代謝に関心を持っている。
血糖値異常の発生頻度を調査するために経口糖負荷検査を実施した。
経口糖負荷検査
糖尿病という診断を受けていない無症候性の患者で検査を行った。
- 一晩の絶食
- 75gmsのブドウ糖を摂取
- ブドウ糖とインシュリンを測定(-15,0,30,60,90,120分)
- ブドウ糖恒常性分類を実施
経口糖負荷検査結果
20人の成人(30歳以上)に関する「ブドウ糖」状態の分類。
- 臨床的糖尿病 2/20 (10%)
- 無症状糖尿病 7/20 (35%)
- 糖耐性異常 9/20 (45%)
- 正常な糖耐性 2/20 (10%)
糖耐性異常のメカニズム
まとめ
- 対照群と比較してウィリアムズ症候群は糖耐性異常と無症状糖尿病の発生頻度が高い。
- 異常はウィリアムズ症候群の青年期や成人で発生する。
- ウィリアムズ症候群であることがリスクを高める。
- 我々は欠失している遺伝子、特にSTX1Aが糖耐性異常に寄与していると推測する。
勧告
- ウィリアムズ症候群の成人には経口糖負荷検査を実施する。
- 短時間で大量のブドウ糖を摂取することを避ける。
- 糖尿病を誘発する薬を避ける。
- 過体重にならない。
- 活動的な生活習慣を継続する。
- 検討中の治療のガイドライン
体重増加
- ウィリアムズ症候群の若者は概して「やせ」ている。
- 我々が観察した成人は
- およそ50%はやせている。
- およそ50%は体の中央部に脂肪がついている(洋ナシ型)。
- 少数は足に粘液水腫がある。
- 体重増加の理由は不明である。
- 遺伝子的素因である可能性がある。
- 非活動的な生活習慣が原因の可能もある。
成人の歯科異常
ウィリアムズ症候群では不正咬合・歯牙欠如・歯牙形成不全・歯列不整の発生頻度が高い。さらに、歯科衛生状態が悪いという根本原因が虫歯・歯槽膿漏・抜歯につながる。(歯科衛生状態の悪さは、多くの場合視空間微細運動が苦手であることに起因する。)
- イェール大学での研究対象である20人の成人(30歳以上)の場合、
- 良好な歯科衛生状態 2/20
- 普通の歯科衛生状態 8/20
- 悪い歯科衛生状態 9/20
- 評価していない 1/20
歯科衛生に関する勧告
- 週1回程度の親や世話人による歯磨きのチェック。
- 親や世話人によるデンタルフロス利用の援助
- 使える場合は電動歯ブラシの利用
- 3〜4ヶ月に一度の歯科医によるクリーニング。6ヶ月では間隔が開きすぎる。
消化器系の問題
ウィリアムズ症候群の成人における消化器系の問題は医学文献や我々の観察を通じ非常によく見られる。
- 共通して報告されている問題は以下の通りである。
イェール大学の研究に参加した20人の成人に見られた消化器系の問題
- 何らかの消化器系問題 15/20
- 腹痛 8/20
- 便秘 9/20
- 下痢 8/20
- 憩室炎 5/20
- 腸の外科手術 6/20
腸の外科手術は下記を含む
- 憩室症による大腸の部分的切除 1
- 痔核摘除 1
- 虫垂切除 1
腹痛の原因
- 憩室症
- 逆流(胸やけ)
- 便秘
- 痔
- ? セリアック病(熱帯性下痢あるいはグルテン(glutein)過敏)
- ? 過敏性大腸症候群
- 不安症(別途診断される)
- 慢性的便秘の予防
- 「胸やけ」とともに発生した場合に受診を薦める症状:体重低下・腹痛(特に発熱を伴う場合)・排便習慣の変化
- 慢性的腹痛の原因は不明なことが多い:医学的疾病の可能性が排除された場合は「生体フィードバック技術」利用を検討する。
出版されている成人の行動プロフィール
- アドウィン(Udwin) N=119 行動面や情動面の問題の発生頻度が高い
- ボルグラエフ(Borghgraef N=8 対照群と比較しても問題は多くない
- ゴーシュら(Gosch&) N=57 若者に比べて不安・抑鬱が多い。非活動的
- デイビーズ(Devies) N=71 社会・行動・情動面の問題の発生頻度が高い
アドウィンのデータから(N=119)
- 孤独感 71%
- 不眠(restless) 71%
- 落着きが無い 77%
- 悩み(Worried) 87%
- 恐怖(Fearfull) 73%
- 苦痛・痛み 67%
- 先入観・こだわり 82%
20人の成人に対する直接面談による診断結果
- 大部分が不安症である。
- 増大と現象を繰り返す。真性無能力症になる人は少ない。
- 大部分が恐怖症である(雷・エスカレータなど)。
- 20%程度の人に抑鬱的な経験がある。
- 10%以下の人に強迫性障害あるいは性衝動制御障害(sexual impulse control disorder)が見られる。
- 5%(確度は低い)程度の人が深刻な精神障害を経験して精神病院に入院した。
- 精神的障害は多面的Rx治療(multi-faceted Rx treatment)により寛解する。
- 不安症
- カウンセリング/治療
- 生体フィードバック/リラックス手法
- 抗不安症薬
- 服用量は最小限に。ウィリアムズ症候群の患者はこの種の薬に対して非常に敏感である。
- その他の疾患
ウィリアムズ症候群における早期老化
両親は身体的・認知的な早期老化を心配している。
- 早期老化(premature aging)に関する医学的証拠
- 頭髪の早期老化
- イェール大学の研究対象者である成人の20人のうち19人。
- 白髪になる平均年齢は29歳(16歳から64歳)
- 老人性難聴
- ? 糖尿病
- ? 皮膚のしわ
認知機能の早期老化
- 認知機能の早期老化(accelerating cognitive aging)に関する証拠
- ± 経時的に知能指数が低下する証拠
- 記憶をなくすことを示す証拠は無い
- ? MRI画像は加齢を示唆
- 臨床的には年齢が高いと若い時に比べて「鋭敏(shaarp)」ではない。
- さらなる研究が必要である。
イェール大学の研究に参加した20人の成人の居住及び就職状況
- 現在の居住状況
- 両親と同居 8/20
- グループホーム 5/20
- 管理人付きアパート 5/20
- 退職者共同体 2/20
- 現在の就職状況
- 有給・管理者なし 1/20
- 有給・管理者あり 6/20
- 授産施設 7/20
- 無職 6/20
謝辞
- 個人
- Elizabeth Cherniske
- Lucy Osborne
- Robert Schultz
- Jamie Kleinman
- Cheryl Klaiman
- Barbara Teague
- Thomas Carpenter
- Sonia Caprio
- David Breault
- Erica Wang
- Eytan Young
- Gene Fisch
- Joel Bregman
- 家族
- 援助
- Yale Pepper Aging Center, Pilot Project
- Williams Syndrome Association, Pilot Project
- NICHD 5-P01-HD03008-35
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