20人のウィリアムズ症候群高齢者に関する多面的研究
Multisystem study of 20 older adults with Williams syndrome.
Cherniske EM, Carpenter TO, Klaiman C, Young E, Bregman J, Insogna K, Schultz RT, Pober BR.
Child Study Center, Yale School of Medicine, New Haven, Connecticut.
Am J Med Genet. 2004 Nov 8 [Epub ahead of print]
Am J Med Genet A. 2004 Dec 15;131(3):255-64
ウィリアムズ症候群の自然史に取り組むため、30歳以上のウィリアムズ症候群成人20人に対して多面的評価を行い、複数の臓器系に高い頻度で問題が発見された。もっとも顕著でかつ一貫した発見には、異常体質;軽度から中程度の高音域の感音性聴覚障損失;循環器疾患と高血圧;憩室症を含む消化器系の徴候;糖尿病および標準的な経口糖負荷試験に関する糖耐性異常;無症状性の甲状腺機能低下症;DEXA骨密度測定による骨塩量低下;高頻度で見られる精神的徴候(不安感がもっとも目立ち、色々な療法が必要になる)。脳のMRI検査をレビューしたが、一貫した病理変化はみつからなかった。今回検査した同年齢集団には一人暮らしをしている成人はおらず、ほとんど給与が支払われる定職を持っていない。今回の予備的な発見によって軽度の加齢亢進の可能性が心配され、これがウィリアムズ症候群の高齢者の長期的自然史を複雑にする可能性がある。ウィリアムズ症候群の成人を総合的に看病するために役にたつ診察ガイドラインを提供する
(2004年11月)
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表2「ウィリアムズ症候群の成人に対して推奨する医学的モニター内容」を追加します。
(2005年4月)
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下記に示す推奨案はウィリアムズ症候群の成人に対する継続的な管理の参考にしてもらうことを意図している。ウィリアムズ症候群の診断を受けたばかりの患者に対して実施されるべき初期評価はすでに発刊[2001]されている。我々は30歳を越える成人を対象としてこの推奨案を拡張した。
全般
- 包括的な年次定期健診。ウィリアムズ症候群に精通した内科医が望ましい。
全般的な福祉と栄養
- 過度の体重増加を防止することに焦点を当てたダイエット教育
- RAD(Risk/Benefit Assessment of Drugs:適用量)を超えないカルシウムやビタミンDの摂取
- 必要に応じてADA(American Dietetic Association)ダイエット(後述の内分泌項目も参考に)
- 活動的な生活様式をとることを薦め、循環器系障害による禁忌がない場合は運動療法を中心とする
眼科
- 斜視・屈折異常・白内障をモニターするための年次定期眼科健診
耳鼻咽喉科/聴覚
- 感音性聴覚損失を調べるため、30歳になった時点で基本的聴覚検査
- 通常は5年毎、聴覚損失がある場合は安定するまではもっと頻繁な聴覚検査
- 必要に応じて柔軟剤(softening drops)を使用した耳垢防止と除去
歯科
- 歯磨き方法やデンタルフロスの使い方の監督
- 電動歯ブラシ使用の検討
- 3〜4ヶ月毎の包括的歯科クリーニング
- 歯科クリーニングや処置を行う前の継続時間の短い経口抗不安薬使用の検討
循環器系
- 循環器疾患が安定している場合でも3〜5年毎の循環器検査
- 雑音があるかどうかを確認するための年次腹部聴診
- ドップラー超音波診断など非観血的検査による雑音評価
- 血圧観察
- 正常圧であれば、年に2回の血圧観察
- 高血圧の場合は、狭窄・腎臓系疾病と高カルシウム血症の評価。「特発性」高血圧が確認されていない場合は薬理的治療は勧めない
- 症候性の場合にのみ脳卒中の評価
消化器系
- 食道逆流がある場合は医学的治療
- 便秘・直腸脱や痔の評価
- 食事療法や必要に応じた医学的管理による便秘防止
- 重度あるいは反復的な腹痛がある場合は迅速な評価(憩室症があるかどうかを見分ける)
泌尿器系
- 血中尿素窒素・クレアチニンを調べる年次尿検査
- 腎臓と膀胱の総体症状を調べる超音波検査か10年毎の継続的なモニター
- 尿路感染症に対する自覚感度を上げる
- 日常的な婦人科的ケアと前立腺スクリーニング
内分泌系
- 1〜2年毎の血中カルシウム濃度検査(異常があれば頻度を上げる)
- スポット尿のカルシウム/クレアチニン比を調べる年次検査
- 高カルシウム血症や高血圧が判明している場合は
- カルシウムとビタミンDの摂取量を計算するために3日間分の食事を記録。摂取量がRDAを超えている場合は、RDAの80%まで減らして再検査
- カルシウム/クレアチニン比を調べる24時間尿検査(正常な成人の場合は≦ 0.22、正常な成人のカルシウム排泄は<0.4mg/kg/24hr)
- 腎石灰化症検査のための腎臓超音波検査
- Biointact PHT・1,25(OH)2・25-OHビタミンDの断食定量検査(fasting determination)
- 骨量を評価するための二重×線エネルギー吸収法検査(DEXA)
- 高カルシウム血症や高カルシウム尿症が継続する場合、あるいは調節ホルモン量が異常である場合は内分泌専門医の診断を受ける
- 基本的DEXA検査
- 正常な場合は5年毎に繰り返す。骨折がある場合は頻度を上げる
- 軽度の骨粗しょう症の場合(骨塩量密度Tスコアが平均より標準偏差で1.5〜1.8少ない場合)でかつ他に骨折につながるリスク要因がない場合
- 尿中の骨代謝回転(bone turnover)マーカーのチェック
- 24時間尿中のカルシウム・クレアチニン・ナトリウム量のチェック
- 25-OHビタミンDレベルのチェック
- 上記のチェック内容が正常ならば1年以下の間隔でDEXAを繰り返す
- カルシウムの補助栄養摂取は行わない
- 骨量減少がもっと多い場合(骨塩量密度Tスコアが平均より標準偏差で1.8〜2.0少ない場合)
- 副甲状腺機能亢進症・甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症・性腺機能低下症・副腎皮質機能亢進症(Cushing disease)など骨量減少の2次的原因を調べる
- ビスフォスフォネートによる治療の考慮
- ビスフォスフォネートを使用する場合は胃食道における逆流を注意深く観察すること
- 3年毎に甲状腺機能検査と甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベルを検査
- 異常であれば抗甲状腺抗生物質を摂取
- 甲状腺機能低下症を補うために、TFTとTSHの検査を毎年行い、TSH>10であれば甲状腺ホルモンの補充療法を検討する
- 30歳時点で基礎的経口糖負荷試験(OGTT)
- 5年毎に経口糖負荷試験を繰り返す。急激な体重増加見られる場合は頻度を上げる
- ウィリアムズ症候群の成人に対して、ヘモグロビンA1Cはスクリーニングツールとして適していない
- 糖代謝異常を運動と食事療法でコントロールする
- 無症状性糖尿病(silent diabetes)は運動・食事療法・薬物療法で管理する
- 臨床的糖尿病の患者は通常の糖尿病の成人と同じ方法で治療を行う
- 日常的婦人科ケアとマンモグラフィー(乳房X線撮影)
- 骨盤検査の前に継続時間の短い経口抗不安薬使用の検討
- 小児科鏡(pediatric speculum)を使用する
筋骨格/外皮
- 拘縮や脊柱側湾症の評価の為の理学療法相談
- 関節の可動範囲や姿勢を維持するための限定的な運動措置
- 軽度の病的四肢肥満(lipedema)の場合は専門家の診断を受ける。圧力ストッキングやラップ(wrap)による治療を検討する
神経科
- 急性神経的徴候、神経学的検査の非対称性や低レベルの慢性的神経学的問題の悪化などがある場合は、急いで神経画像検査と同時に神経科専門医の診断を受ける
- 神経学的徴候が見られない場合、基本的な神経画像検査を受ける必要ない
癌のスクリーニング
- マンモグラフィーと前立腺・精巣・大腸などの癌のスクリーニングを含む日常的な癌の監視を年齢や家族の病歴に応じて指示する
精神科
- 抑うつを含む精神病理学的の発生頻度が高くなることや不安症候群の罹患率を考慮すると、気になる徴候がある場合は精神科的治療を早めに検討すべきである
- 患者は一般的な成人の服用量に敏感に反応する傾向が見られるので、薬物治療は低服用量で開始すべきである
- 注意深く長期的に精神状態の評価を行わずに精神病の診断をすることには注意が必要である
社会性と職業
- ウィリアムズ症候群の認知機能の長所短所を考慮しながら、最大限の自立を促すような居住方式を検討する
- ボランティア的な立場でもかまわないので働く機会を持つよう促す
- 外出など社会とのつながりを促進させる
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