ウィリアムズ症候群の医学的全体像と遺伝学
Medical overview and genetics of Williams-Beuren syndrome
Leslie Smoot, 1, Hui Zhang, 1, Cheryl Klaiman, Robert Schultz and Barbara Pober
Department of Cardiology, Children's Hospital
Department of Genetics, Yale University School of Medicine
Child Study Center, Yale University School of Medicine
Mass General Hospital for Children and Children's Hospital
Progress in Pediatric Cardiology ; Volume 20, Issue 2 , July 2005, Pages 195-205
Genetics of Pediatric Heart Disease
要約
ウィリアムズ症候群は多臓器に影響が及ぶ遺伝子疾患であり、第7染色体の微小欠失を原因とする。大部分の患者は狭窄循環器系病状を呈し、大動脈弁上部やその他の血管の狭窄が最もよくみられる。進行性の狭窄も発生しることがあり、さらに、ウィリアムズ症候群患者の50%は高血圧をおこす。生命の危険につながる循環器系合併症の絶対的リスクは低いが、両室性拍出障害のような障害が組み合わさると有害な結果につながる相対的なリスクが高まる。さらにウィリアムズ症候群にはさまざまな合併症があり、摂食障害・疝痛と被刺激性・身体の低成長・歯列異常・便秘・様々な内分泌異常が含まれる。ウィリアムズ症候群の患者全員に知的障害がある。患者の大部分は中程度の精神遅滞の範囲にあり、認知機能に関しては強いところと弱いところを併せ持つ独特のプロフィールを示す。特にたいていのウィリアムズ症候群患者が不安症と恐怖症を発達させる。ウィリアムズ症候群にはかすかではあるが特徴的な顔貌異形症があり、上述した疾患とともに診断の手がかりとなり、最終的にはFISH(fluorescence in situ hybridization)臨床検査を使用して片側のエラスチン遺伝子の欠失を確認することで確定診断される。ほぼすべてのウィリアムズ症候群患者は片側の第7染色体の微小欠失は同じ大きさであり、20個の遺伝子のコピーひとつを失っている。これらの遺伝子がウィリアムズ症候群患者の持つ複雑な表現型に与えている影響については、現在様々な研究室で研究が行われている。ウィリアムズ症候群患者は長期にわたるケアが必要であり、医学的処置と予防指導に関するガイドラインを提示する。
中略
3.1 認知、適応、行動面の特徴
大部分のウィリアムズ症候群患者は軽度から中程度の精神遅滞であり、知能指数の平均値は50−60である。しかし、ウィリアムズ症候群の人全員が精神遅滞はなく、中には全知能指数の得点が境界レベルから平均の下限(知能指数で70から90)の人も存在する。ウィリアムズ症候群の人は特徴的な強みと弱みのパターンを示す不規則な認知プロフィールを有している。したがって総合的知能指数得点だけをみていると判断を誤ったりこれらのパターンがぼやけたりする。ウィリアムズ症候群における典型的に弱い部分は視空間機能、知覚計画機能、微細運動能力である。ウィリアムズ症候群の人は標準的な検査課題及び日常生活の両面において視空間課題に深刻な障害がある。ウィリアムズ症候群の人の多くは、連続して書く文字の手書きや描画に困難があるが、練習や年齢を重ねることで進歩も見られる。通常ではウィリアムズ症候群の人は読字・書字・算数などの学習面に問題があり、多くの場合これらの分野では7歳から8歳レベルにしか到達しない。これらの技能面の中で、空間や距離や量などこの症候群に見られる視空間能力に関連する分野の適切な判断能力を必要とする算数が最も不得意である。
比較的強い分野には言語能力が含まれることが多いが、初期には言語の遅れが共通してみられ、発語は2歳前後、文章は3歳前後になる。年齢が高い子供や青年においては全体的な言語能力も軽度の障害範囲にあるが、共通してみられる強みは言語効果の部分であり、ウィリアムズ症候群の人は感情・韻律・物語で豊富な表現ができる。
予想よりも優れている能力の1つに顔に興味を持つことと並んで相貌認識があり、ウィリアムズ症候群の人の目だった特徴である。相貌認識能力はウィリアムズ症候群の人にみられる強い社会的興味と関連していると考えられている。他の強みとしては、歌や楽器の演奏、音楽理解などの音楽的才能がある。しかし音楽、特にリズム要素に対して、はっきりした傾向があるのか、確かな才能があるのか、あるいは単に興味が昂進しているだけなのかは明らかになっていない。ウィリアムズ症候群の人の大部分は音楽を聞くことが好きであり、技巧的で複雑なリズムに追従する能力は期待以上であることが多い。最近行われた機能MRIを利用した脳に関するある研究では、ウィリアムズ症候群の人は音楽を聞いているときに対照群より神経組織の活性化が高いことが判明している。
適応行動は身の回り世話や他人と上手くやっていくために必要な日常的機能課題に関連する。この分野は、その子が何をやれる能力があるのか、ではなく、何をするかに関係する。ウィリアムズ症候群の子どもはコミュニケーションや社会的行動は比較的優れているが、日々の自助能力には劣っている。貧弱な日々の自助能力は成人になっても継続し、個人的な自助能力はおよそ6歳程度のレベルにしか到達しない。
ウィリアムズ症候群の人は複雑な性格及び行動特性がある。典型的な例としては、ウィリアムズ症候群のひとは極度にひとなつっこく外向的である。しかし、これは特徴を不正確かつ単純化しすぎており、この典型例は通常子どもの頃にはしばしばみられるが成人になるとそれほどでもないという発達にともなう重要な変化を無視している。さらに、ウィリアムズ症候群の人の大部分は注意を維持することに問題があり、多動あるはADHDとして表面化する。年齢が高い子どもや成人の多くは、不安に関して顕著な問題を経験し、他の発達障害の人に比べてその程度が強い。ときとしてその対象は社会的あるいは人間関係の問題に関連する。この不安は一般的な不安に対する感度レベルが高いこと、及び特定の恐怖症の両方を含んでいる。不安の程度と濃度は時間とともに変化するが、青年や成人の多くは特にストレスが高いときほどカウンセリングや薬物治療に効果が期待できる。その他の精神医学的症状には、ウィリアムズ症候群成人患者の大規模集団における臨床調査から、うつ、強迫的衝動徴候、恐怖症、パニック衝動、PTSD(Post-traumatic stress disorder)などが観察されいる。
後略
(2006年2月収録、5月追記)
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