Williams症候群(Williams-Beuren症候群)
下島 圭子
東京女子医科大学国際統合医科学インスティテュート
小児科診療 第72巻(2009年) 増刊号 98ページ
【定義・概念】
妖精様顔貌(elfin face)とよばれる特徴的な顔貌、大動脈弁上狭窄を中心とした心血管系病変、精神発達遅滞、高カルシウム血症、人懐っこい性格を主な特徴とする症候群である。Williams-Beuren症候群ともよばれる。
【病因・病態生理】
塩基配列相同部位(low copy repeat:LCR)で囲まれたelastin遺伝子(ELN)を含む、7q11.23領域が欠失することによる隣接遺伝子症候群である。減数分裂時の相同染色体組換えの際に生じる、非対立相同組み替え(non allelic homologous recombination:NAHR)によるとされている。欠失範囲は90%以上が1.5-Mb(典型例)、約5〜8%が1.8-Mb、ごくわずかに1.5-Mbより狭い非典型例が存在する。この領域の逆位は一般人の1/3で認めるとされているが、欠失との関連は不明であり、むしろLCRの構造の違いが関連している可能性が示唆されている。
ELNの欠失により心血管異常をきたす。欠失領域内のLIMK1は視空間認知障害に、CYLN2、GTF2IRD1、GTF2Iが精神発達遅滞に関連しているといわれている。
【発生頻度】
【症状・診断】
妖精様顔貌と形容される特徴的な顔貌(前額部突出、浮腫状の瞼、鼻根部平坦、上向きの鼻孔、長い人中、厚い口唇、小さい顎、歯牙形成異常)、心血管病変(大動脈弁上狭窄、肺動脈狭窄)、嗄声、聴覚過敏、関節拘縮、低身長、内分泌異常(乳児期の高カルシウム血症、高カルシウム尿症、甲状腺機能低下、思春期早発)なども認める。腎尿路奇形を認める例もある。人懐っこい性格、注意欠陥多動傾向、中等〜重度の精神発達遅滞を認める。ことばの短期記憶や音楽的能力に優れている一方、視空間認知障害を認める。
【治療・予後】
診断は7q11.23のELNをカバーするプローブを用いたFISH法による。
心血管異常の程度が予後をもっとも左右する。大動脈弁上狭窄が年齢とともに重度となり、外科的治療が必要とされる場合がある。また、冠動脈の閉塞や流出路閉鎖による突然死の報告もあり、循環器専門医による定期的なフォローが必要である。
乳児期は哺乳障害も重なり、体重増加不良を認めることが多い。高カルシウム血症には低カルシウム食、注意欠陥多動傾向にはメチルフェニデートが有効との報告がある。成人期以降、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満を合併することがあり、全身管理については定期的なフォローの必要がある。
(2009年8月)
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