【長期予後と成人後の医学的問題】染色体異常
小崎健次郎
慶応義塾大学医学部臨床遺伝学センターセンター長、教授
日本医師会雑誌 第143巻第10号 2015年1月 2125-2128ページ
略
V ウィリアムズ症候群
1万〜2万人に1人に発症する。染色体の微細欠失によって発症し、大動脈弁上狭窄を中心とした心血管病変、特徴的な顔貌、精神発達遅滞を主症状とする。エラスチン遺伝子を含む7番染色体長腕q11.23領域の決失による。
1.心臓・大血管
大動脈弁上狭窄・末梢性肺動脈狭窄など、さまざまな部位の血管狭窄を呈するため、心大血管と高血圧に対する定期的なフォローアップが必要である。重症の大動脈弁上狭窄には手術が考慮される。心筋梗塞による突然死のリスクがあるため、特に流出路の狭窄と心筋肥大がある症例には注意する。麻酔時に起きることもある。また、大動脈弁閉鎖不全が20%程度に、僧帽弁逸脱が15%程度の患者に起きる。50%程度の患者に高血圧が発症するが、そのリスクは加齢と共に上昇する。腎血管性高血圧により発症しているときは、腎動脈形成術を行う。
2.内分泌
小児期および成人期に甲状腺機能低下を来すことがあり、その頻度は10%程度とされているため、2〜3年に1回程度、甲状腺機能を確認する。成人の15%程度に糖尿病を来すことがあるので、30歳を過ぎた場合、2〜3年に1回程度評価する。また、尿中カルシウム・クレアチニン比と血清カルシウム値を2〜4年に1回程度測定する。高カルシウム血症が食事療法により改善しないとき、腎石灰化を合併するとき、高カルシウム尿症を来しているときは、腎臓内科医に相談する。
3.感覚器
成人においては、軽度から中等度の聴力低下を認めることがある。30歳を過ぎた患者については3年に1回程度、聴力の評価を続けることが望ましい。
4.精神神経疾患
成人期に小脳症状・錐体外路症状を呈することがあり、歩行障害を来すことがある。また、睡眠障害の頻度が高く、日中の行動異常につながることがある。
5.歯科
歯列不正は85%程度に認められる。患者が治療に協力可能な場合には歯科矯正を考慮する。ウィリアムズ症候群の場合、障害者自立支援ならびに顎口腔機能診断料算定の歯科医療機関において保険診療で治療を受けることができる。
(2015年10月)
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