高い社交性を呈する希少疾患、ウィリアムズ症候群
京都大学大学院医学研究科 形態形成機構学 木村 亮
難病と在宅ケア VOL.28 No.4 2022.7 45-48ページ
略
7.今後の課題
1)長期的な経過
成人を対象とした長期的なフォローアップ研究がほとんどないことから、加齢に伴う新たな合併症の有無や平均的な寿命などは不明である。白髪や難聴などが青年期から成人早期にみられることから、老化が促進されている可能性が示唆されている。
最近、我々はDNAメチル化を基に加齢の程度を算出したところ、ウィリアムズ症候群患者は健常群と比べ、老化が促進することを明らかにした(投稿準備中)。今後、加齢に伴う認知機能の変化をイメージング等で評価する必要があるだろう。
2)表現型の多様性(個人差)
染色体の微細欠失により、決まった領域にある同じ複数の遺伝子が失われるにも関わらず、症状の個人差は非常に大きい。環境因子と遺伝的修飾因子の双方が表現型の多様性に関与すると考えられているが、まだその機序は明らかになっていない。
3)病態機序
欠失領域内の一部の遺伝子に着目した研究が主体となっているが、全体像はまだ明確になっていない。そのため、表現型と遺伝子との関係は完全には解明されていない。
我々は、遺伝子のネットワーク異常に着目した研究を通じて、欠失領域外にある遺伝子も症状に関わることを明らかにした。このような従来とは異なるアプローチによる病態解明研究から新たな知見が得られることが期待される。
4)治療法
治療法には、遺伝子や遺伝子産物をターゲットとするもの、機能的経路を狙うもの、症状の緩和を目指すものなど様々なアプローチが考えられる。そのうち、症状への対応については以下の3つを明らかにする必要がある。@高血圧については、積極的に治療を行うべきか、どのような薬剤が最適かは、まだ結論はでていない。A手術時の麻酔について、突然死を引き起こすリスク因子はわかっていない。B不安症状の対応については、薬物療法に加え、非薬物療法についてもエビデンスが必要である。
ここに挙げた課題の解決のため、小児ケアから成人ケアへの移行期医療(トランジション)の整備や国際共同研究の展開などが必要であろう。
(2023年9月)
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