ウイリアムス症候群の原因について:質問と回答
ウイリアムス症候群の原因について、現在までにわかっていることを質問に答える形でまとめました。医療の専門家が作成したものではありませんので、正しくない部分があるかもしれません。詳しい事はかかりつけの医師に相談してください。
ウイリアムス症候群の子供は、ひとなつっこく、おしゃべりで、音楽的才能が豊かで、人の感情に敏感で、純粋な子供たちです。成長して会話が出来るようになってからは、楽しいこと、愉快な出来事がたくさんあります。ちょっぴり心配な事もあります。この病気の原因を正しく理解したうえで、子育てをして下さい。
(1997年8月 杉本 雅彦:文責)(2006年2月 修正)
★ ウイリアムス症候群の原因は何ですか?
7番染色体の一部分が欠けていること(染色体の微小欠失)が原因です。
★ 「一部分が欠けている」とはどういうことですか?
まず、染色体について説明します。染色体は私達の身体にある細胞の一つ一つの中に含まれていて、身体を作る設計図のようなものです。私達人間は染色体を全部で23組み(合計46本)持っています。大きいほうから1番から22番まで番号が付けられた22組み(常染色体)と、男か女かを決める1組(性染色体)があります。
ウイリアムス症候群の場合は、この中の7番染色体が関係します。染色体は両親から半分ずつもらってきます。つまり、7番染色体でいえば、一本はお母さんから、もう一本はお父さんからもらってきたものです。この2本ある7番染色体の片方のごく一部分が無くなってしまっています。
★ もうすこし詳しく教えてください?
この染色体の中の重要な部品が、DNAと呼ばれるものです。DNAは、ビーズ玉で作った一本の紐のようなものだと考えてください。一部分が欠けていても、欠けていなくても、ビーズ玉で作った一本の紐であることに変わりはありません。欠けているというのは、ビーズ玉を通し忘れて模様が変わってしまった部分があるように、一部分が抜け落ちていることです。つまり、一部分が欠けた紐(DNA)は、正常な紐に比べると少し短くなっているのです。下の図は、DNAをマンガ的に書いたものです。アルファベットはビーズ玉の模様だと考えて下さい。下側のDNAは、 JKL という部分が欠けてしまっていることを示しています。
(正常) ABC・・・・・HIJKLMN・・・・・XYZ
(欠失あり) ABC・・・・・HIMN・・・・・XYZ
★ 遺伝子と「一部分が欠けている」ことはどのような関係にあるのですか。
長い紐のようなDNAの一部分が、遺伝子とよばれています。さきほど「設計図のようなもの」という例えをしましたが、この遺伝子が設計図そのものです。いろいろな機能をもった遺伝子が、DNAの中にのあちらこちらにたくさん組み込まれています。ビーズの例えで言うと、色違いのビーズで作った模様の一つ一つが遺伝子で、遺伝子はそれぞれビーズの組み合わせが異なっています。DNAの一部分が欠けてしまうと、本来その部分にあったはずの遺伝子も無くなってしまいます。このため、その遺伝子の働きが失われてしまうのです。ウイリアムス症候群の場合は、欠けてしまった遺伝子の一つが ELN (エラスチン遺伝子)です。
★ 顕微鏡で見れば、欠けている事がわかるのですか?
いいえ。欠けているといってもほんのわずかですので、顕微鏡を使ったとしても、目で見ただけではわかりません。
★ では、どのようにして欠けている事を調べるのですか?
顕微鏡で染色体を見るだけでは、欠けている事はわかりませんので、通常の染色体検査では発見できません。FISH 法という染色体検査方法で調べます。FISH 法では、7番染色体のDNAの特定の部分(ウイリアムス症候群の原因として欠けるところ)にだけくっつくような、蛍光を発する特別な検査プローブが使われます。このプローブを、調べたい細胞の染色体に反応させます。染色体が欠けていなければ、プローブが染色体にくっつきます。染色体の一部分が欠けていると、プローブはくっつきません。このため、正常な細胞ではプローブが2本の7番染色体にくっつき、ウイリアムス症候群と診断される細胞では、正常な方の7番染色体1本にしかくっつきません。結果は顕微鏡を通して目で確認します。2箇所が光っていれば正常です。1箇所しか光っていなければ、欠けている部分があるということで、ウイリアムス症候群と診断されます。
下図は、プローブと染色体(正確にはDNA)の結合の様子を現しています。jkl と言うのがプローブで、DNAの JKL という部分にだけくっつきます。正常なDNAには、 JKL という部分がありますので、このプローブがくっつきます。 jkl は蛍光を発するので、顕微鏡で見ると光ってみえます。ところが、 JKL が欠けている下側のDNAには、プローブ jkl はくっつきません。このため、顕微鏡で見ても光らないのです。
jkl
(正常) ABC・・・・・HIJKLMN・・・・・・XYZ
(欠失あり) ABC・・・・・HIMN・・・・・・XYZ
★ FISH 法で検査すれば、ウイリアムス症候群と必ず診断できるのですか?
いいえ。大動脈弁上狭窄などの臨床的症状から見るとウイリアムス症候群と思われるのに、FISH 法で検査しても正常と判定される人が少ないながら存在するという報告があります。欠けている部分の大きさなどが影響しているのかもしれませんが、詳しい事はわかっていません。染色体が欠けていなくて、その部分の遺伝子があるにもかかわらず、その遺伝子が機能しないという可能性も考えられます。
★ いつ染色体の一部分が欠けてしまうのですか?
詳しくはわかっていません。親の身体の中で精子や卵子が作られるときに、細胞が分裂します(減数分裂といいます)。この際に染色体のコピーが行われますが、そのコピーがうまく行われないことが原因ではないかと考えられています。この部分には同じようなDNAの並びが複数存在していて、中にはその向きが反対になっているひともいるようです。このために減数分裂の際に染色体のペアが正しく並べないために発生するようです。でも、めったに起きないことであることは確かです。生まれてくる子供の2万人に1人の割合だと言われていますが、もう少し多いという調査結果もでているようです。
★ 欠けている部分の大きさは、皆同じなのですか?
いいえ。どうやら7番染色体の欠けている部分の大きさは、一人一人同じではないようです。また、欠けている部分にどのような遺伝子が存在するか、についても完全に解明されているわけではありません。このため、同じウイリアムス症候群といっても、細かい症状や、能力等は一人一人違っています。つまり「これがウイリアムス症候群だよ」という、きっちりとした定義はできないようです。また、ウイリアムス症候群を持った一卵性双生児、つまり全く同じ染色体や遺伝子を持った子供の間でも症状には違いがでる、という報告もあります。
★ 欠けた染色体がどのように子供に受け継がれるのですか?
今言ったように、染色体が欠ける事はめったに起こらないので、ほとんどの場合お父さんの精子やお母さんの卵子は正常です。でも、非常に稀なケースとして、お父さんの場合は染色体の一部分が欠けた精子ができることがあります。お母さんの場合は染色体の一部分が欠けた卵子ができることがあります。この精子か卵子が、受精して子供にまで成長することで、一部分が欠けた染色体が子供に受け継がれます。
★ では、ウイリアムス症候群の子供の身体中の7番染色体は、全部欠けているところがあるのですか?
そうです。受精した卵子が成長する時、細胞の数が増えるにしたがって染色体がコピーされていきます。先程述べたように2本ある7番染色体の片方の一部分が欠けているわけですが、正常な方は正常のまま、欠けている方は欠けたまま正確にコピーされるので、ウイリアムス症候群の子供の7番染色体の片方はすべて一部分が欠けています。そのため、心臓・腸・腎臓・関節・脳など身体中に症状が出るのです。
★ 7番染色体の一部分が欠けてしまって大丈夫なのですか?
正常な方の7番染色体が働いている(つまり、遺伝子が働いている)ので致命的ではありませんが、片方だけでは100%の機能が果たせないようです。
★ お父さんのお酒やたばこ、お母さんの妊娠期間中の薬の服用等が原因ではないのですか?
お酒やたばこの影響はわかっていませんが、少なくとも受精した瞬間にはウイリアムス症候群になることが決まっています。受精後の妊娠期間や、出産、その後の子育てがウイリアムス症候群の原因ではありません。
★ 原因はお父さん・お母さんのどちらなのですか?
今までの研究では、ほぼ半々です。つまり、2本ある7番染色体のどちらかの一部分が欠けているわけですが、欠けた7番染色体がどちらかの親から来たものかに特別な傾向はありません。
★ 欠けた染色体を渡した親には、何か悪い所があるのでしょうか?
悪いところがあったという研究報告は、今のところありません。染色体の一部分が欠けるのは偶然としか言えないようです。つまり、ウイリアムス症候群の子供を持ったからといって、次の子供がウイリアムス症候群になる可能性が高くなるということもありません。
★ 早い話し、ウイリアムス症候群は遺伝病なのですか?
2つに分けて考える必要があります。まず、ウイリアムス症候群を持っていない両親からウイリアムス症候群の子供が生まれた場合は、遺伝したわけではありません。先程言ったように何かの偶然で、親の精子か卵子のどちらかの7番染色体の一部分が欠けてしまったのです。
しかし、ウイリアムス症候群を持った親からは、子供に遺伝します。片方の親がウイリアムス症候群を持っていれば、生まれてくる子供の2人に1人はウイリアムス症候群を持つ可能性があります。つまり、50%の確率です。
★ ウイリアムス症候群は人にうつるのですか?
いいえ。染色体が欠けていることが原因ですから、決してほかの人にうつることはありません。
★ ウイリアムス症候群は治るのですか?
家族にとってはつらいことですが、治ることはありません。欠けた染色体は元に戻らないからです。染色体が欠けたことが原因で発生した、大動脈弁上狭窄などの症状を手術で治す事は可能ですが、この症候群の原因を根本的に治したわけではありません。
★ では、ウイリアムス症候群の症状は一生変わらないのでしょうか?
欠けた染色体はそのままですが、症状は変化します。大動脈弁上狭窄や腎臓障害などは、子供の身体の成長とのバランスで悪くなったり快方に向かったりします。定期的に検査を受けてください。また、物事を理解する能力等も訓練すれば良くなると信じます。
★ 遺伝子工学が進歩すれば、ウイリアムス症候群が治る可能性がありますか?
現在の技術では不可能です。本来であれば、染色体の欠けた部分は母親の体内で子供の身体が作られるときに、心臓や腎臓や脳などになる部分で重要な働きをします。つまり、子供の身体が出来上がって、生まれてしまってからでは遅いのです。