内分泌・代謝領域における転写共役因子と疾患



柳瀬 敏彦 九州大学大学院医学研究院病態制御内科
内分泌・糖尿病科 第23巻 第1号; 108-114ページ(2006年)

はじめに

ステロイド受容体ファミリーを含む核内受容体は、リガンド依存性に標的遺伝子の転写制御を行う転写調節因子である。転写調節因子の異常により標的遺伝子の転写活性化異常が起こり、生理作用の異常をきたす疾患に対して、転写調節因子病という疾患概念が確立された。しかし、臨床型は同じでも、原因と考えられる転写調節因子に異常を認めない症例が存在する。転写調節因子から基本転写装置へのシグナル伝達の障害と考えられ、両者の間に介在し、転写制御を修飾する転写共役因子の異常の可能性が推察されている。転写共役因子は組織特異的ホルモン応答性や細胞増殖機構、癌化などに深くかかわっていることから、病因、病態の解明や創薬の面からも現在、ホットな研究領域となっている。本稿では内分泌疾患領域における代表的な転写共役因子病としてCREB-binding protein(CBP)異常症であるRubinstein-Taybi症候群(RTS)やわれわれ自身が経験したアンドロゲン不応症におけるアンドロゲン受容体(AR)コアクチベーター病の紹介の他、共役転写因子の関与が示唆されているいくつかの代表的臨床病体についても紹介する。



染色体構造調節因子複合体病としてのWilliams症候群

最近、ビタミンD受容体(VDR)の転写機能に関連して、クロマチン再構成因子として作用するWilliams syndrome transcription factor(WSTF)複合体機能異常がWilliams症候群の病因として明らかにされている。KitagawaらはVDR複合体を形成する蛋白群として、Williams症候群の責任遺伝子と考えられてきたWSTFを含む複合体を見出した。Williams症候群は大血管病変や、妖精顔貌、精神発達遅延などに加え、生下時に高カルシウム血症を生じることが多い常染色体優性遺伝の症候群である。この症候群では染色体7番に焼く1Mbの欠損を認め、近年その欠損遺伝子の一つとしてWSTFが同定されている。WSTF複合体は既知のATP依存性クロマチン再構成因子複合体と構成因子をいくつか共有しており、クロマチン再構成活性をもつ新規の複合体であることが判明した。Williams症候群患者の皮膚繊維芽細胞ではVDRの転写活性の異常が認められ、WSTFを過剰に発現させることで、その機能を回復させ得たことから、その異常はWSTF複合体の機能低下によることが明らかとなっている。

(2006年12月)



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