マウスの研究から学ぶこと



What we are learning from mice
A report from the International Professional Conferernce

Alison Lyon & Terry Monkaba
Heart to Heart, September 2008, Page 4

ウィリアムズ症候群の謎の探求はマウスをモデルとした研究により大きく前進します。科学者は遺伝子を操作して「ノックアウトマウス」を製作し、7番染色体上にありウィリアムズ症候群責任領域を構成する(およそ)25個の遺伝子それぞれの機能を特定する研究をしています。

最近ウィリアムズ症候群協会の主催で開催されたウィリアムズ症候群国際専門家会議(全国大会に併設されました)において、マウスモデルを使った研究プロジェクトの内容が紹介されました。

私達は自分の子どもがウィリアムズ症候群と診断されたときから、遺伝子が脳や心臓や消化器系を作り上げることに重要な働きがあると学んできました。しかし遺伝子の機能は私達の体が「何からできているのか」だけではなく、ウィリアムズ症候群の人々にみられる特定の性格的特長に代表される「発達とともにどのように行動するのか」に関しても重要な役割があります。より多くの詳細な特性を学べば、どの遺伝子がどの特徴に関連しているかをよりよく理解でき、さらに(期待としては)より効果的な療育方法の開発につながります。

科学者達はマウスの遺伝子構造は、ウィリアムズ症候群で欠失している25個の遺伝子の大部分と相似あるいは同等であることがわかっています。そのため「ノックアウトマウス」と呼ばれる、遺伝子のひとつを欠失させた(ノックアウトさせた)マウスを製作することが可能です。この方法を使うことで、特定の遺伝子の機能を同定できます。

ユタ・フランケ博士(Dr. Uta Franke )、スタンフォード大学の遺伝学者、は2種類のノックアウトマウスを作りました。それぞれはウィリアムズ症候群の欠失範囲の異なる部分が失われています。一方のマウス群(近位欠失マウス)は、ケージの中でお互いに鼻を近づけあうなど社会性が向上する一方、音響刺激に影響されやすい(鋭い音に驚きやすいなど)傾向がみられました。他方のマウス(遠位欠失マウス)はウィリアムズ症候群の人を連想させるような認知機能の障害がみられました。これらのマウスとウィリアムズ症候群の人々の類似は注目に値します。

タフツ大学のロイ博士(Dr. Roy from Tufts University)は、ウィリアムズ症候群欠失に存在する重要な2つの遺伝子に関連する転写因子を研究するためにマウスを利用しています。研究の結果これらの遺伝子はウィリアムズ症候群にみられる頭蓋顔面の特徴に関して主要な役割があるようにみえます。マウスはウィリアムズ症候群の人々のような外見になりませんが、ウィリアムズ症候群責任領域に存在する遺伝子が変化することで、頭蓋顔面の発達に変化が現れます。

カナダのトロント大学に勤めるルーシー・オズボーンは、GTF2IRD1と呼ばれる特定の遺伝子をノックアウトしたマウスを研究しています。オズボーンの研究で使っているマウスは、恐怖心や攻撃性が減少する一方社会的行動は増加し、さらに恐怖やストレスへの反応に違いがみられました。この研究でも、ウィリアムズ症候群にみられる特徴とノックアウトマウスの特徴に顕著な類似性がみられます。

これらの革新的な研究から得られる知見が遺伝子的知識に裏打ちされた治療法につながる可能性があります。実際に、イェール大学で最近開催された「ウィリアムズ症候群における循環器系疾患:病理の理解から先駆的な治療法へ」と題した会議において、複数の研究者が、ウィリアムズ症候群の患者はウィリアムズ症候群責任領域には半分の遺伝子が残っていることから、将来には遺伝子療法を利用した治療が選択肢の一つになるだろうと発言していました。すばらしい新技術が開発さると、遺伝子療法で残っている遺伝子のスイッチを入れて活動を活発化させ、その結果相手方の染色体から欠失してしまった遺伝子の動きを補償できるかもしれません。

ウィリアムズ症候群の循環器系疾患のレベルを軽くする、あるいは疾患そのものをなくせる可能性があることはとてもすばらしいことです。このような研究努力を援助するために、WSAはウィリアムズ症候群に興味を持っている循環器研究者にRFA(適用要請書:Request for application)を配布しました。WSAは年末までに4件の申請を審査し、そのうちの1件に向こう2年間で30万ドルの研究助成金を提供する予定です。同時にWSAはウィリアムズ症候群患者台帳(WA Patient Registry)の開発にも資金を提供します。可能性のある治療法が開発された場合、患者に実際に効果があるかどうかを調査するためです。新たな治療法の見込みがあるのはとてもすばらしいことです。

  この記事を書くにあたって、専門的知見を使って内容を検証してくれたバーバラ・ポーバー博士(Dr. Barbara Pober)に感謝します。

(2008年11月)



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