染色体検査でどこまでわかるか:先天性心疾患と染色体検査
大木寛生 (東京都清瀬小児病院 循環器科・遺伝科)
小児内科 Vol.41, No.6, Page886-897 (2009.06.01)
先天性心疾患(CHD)は、その原因から遺伝性症候群、催奇形因子、多因子遺伝に分類される。そこで代表的なCHD関連遺伝性症候群について概説する。染色体異常ではDown症候群(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー、Turner症候群(45X症候群、XO症候群)等がありそれらの各疾患の頻度、臨床像、遺伝相談について述べる。染色体欠失・重複では、22q11.2欠失症候群(軟口蓋心臓顔貌症候群、円錐動脈幹異常顔貌症候群、DiGeorge症候群)、Williams症候群があり、前出の疾患と同様に頻度他を述べる。単一遺伝子病ではAlagille症候群があり、原因不明の症候群には内臓錯位症候群、VATER連合、Goldenhar症候群などがある。家族性孤立性CHDの原因遺伝子としてはNKX2.5(伝導障害、ASD)、GATA4(心中隔欠損)、NOTCH1(BAV、VAS、大動脈弁石灰化)などが報告されている。これらのCHD罹患者の20-25%が心外奇形をもち5-17%が遺伝性症候群を合併し、成長発達障害があれば割合はさらに高くなる。
T.染色体異常
2.染色体欠失・重複
2)Williams症候群
a)頻度
b)臨床像
elastin血管病変、妖精様顔貌(太い内側眉毛、眼間狭小、内眼角贅皮、腫れぼったい眼瞼、星状虹彩、鞍鼻、上向き鼻孔、長い人中、下口唇がたれ下がった厚い口唇、開いた口)、結合組織異常(嗄声、ヘルニア、憩室、関節可動制限)、精神発達地帯(認知機能より表出能に長け、とくに視覚性認知障害あり)、成長障害(子宮内発育遅延、経口摂取困難、早めで短い思春期)、内分泌異常(高Ca血症、甲状腺機能低下、糖尿病)を認める。突然死や麻酔関連死の報告あり。定期的な眼科受診、血圧測定、尿Ca/Cr比、血清Ca、甲状腺機能検査が必要。小児期に複合ビタミン剤内服は避ける。CHD合併頻度は75%。大動脈弁上部狭窄SASが最も多く年齢とともに憎悪傾向あるが末梢性肺動脈(PPS)は軽快傾向あり。ほかに肺動脈弁狭窄VPS、VSD、ASD、MVPなどを認める。
c)遺伝相談
99%以上に7q11.2にあるELN、LIMK1を含むWBSCR(Williams-Beuren syndrome critical region)の半接合体隣接遺伝子欠失を認める。WBSCR前後のLCRsでの不均衡相同組み換えにより欠失範囲は95%が1.55Mb、5%が1.84Mb。NCF1遺伝子欠失を含む後者で高血圧が少ない。浸透率は100%だが表現型多様性がある。ほとんどが新生変異であり同胞再発率は低いが母親の性腺モザイクと父親のWBSCRを含む逆位の報告がある。親の25%〜30%にWBSCRを含む逆位を認める。家族性ではADに従い同胞再発率は50%。次世代再発率は50%。出生前診断が可能であるが、ほとんどが新生変異であるため実施されることはまれ。
(2009年8月、新規+追加)
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