Williams症候群とKlinfelter症候群を合併した症例
清水 雅代1)、木谷 亜矢子1)、河内 佳子1)、高原里枝1)、網島 充秀1)、難波 はるみ1)、高橋 司1)、田坂 文重1)、影岡 武士1)、脇 研自2)、渡部 晋一2)、枡野 光雄2)
1):倉敷中央病院 臨床検査科
2):同 小児科
3):川崎医療福祉大学医療福祉学科
日本染色体遺伝子検査 Vol.27 No.2 65ページ、2009
【はじめに】
Williams症候群(Williams-Beuren症候群:WBS)は、7番染色体長腕の微細な欠失を伴う隣接遺伝子症候群で7q11.23領域にあるELN遺伝子、LIMK-1遺伝子等の欠失が証明されている。特徴的な臨床症状としては、妖精様の顔貌と心血管系の奇形で、頻度は10,000〜20,000人に1人の割合で認められ性差はない。WBSの91〜94%では、通常の染色体分析だけでは異常が確認できず、Fluorescence in situ hybridization (FISH)法により欠失が認められ確定診断となる。一方、Klinefelter症候群は、女性化・外性器異常・不妊症を臨床症状とし、男子新生児の500〜1,000人に1人の割合で認められる性染色体異常症である。Klinefelter症候群は、第二次性徴頃より体幹の成長が止まり華奢な体格・声変わりしない・筋肉が付きにくく運動能力が低い・体毛が薄いなど男性的二次性徴の欠如が見られる。今回、当院にてWilliams症候群とKlinefelter症候群を合併した貴重な症例を経験したので報告する。
【症例】
【主訴】
【現病歴】
在胎41週1日、出生体重2,976gで近医産科にて出生。Apger Scoreは10/10。出生後より心雑音指摘(チアノーゼなし)され7日目に当院小児科を紹介された。心臓超音波検査、心電図検査より心疾患(大動脈弁上狭窄、抹消性肺動脈狭窄)と診断、経過観察とされていたが、3ヶ月検診にて心雑損と陥没呼吸を指摘され再受診となった。発達の遅れと心疾患、妖精様顔貌(太い内側の眉毛、下膨れの頬、腫れぼったい目、上向きの鼻孔、なで肩など)からWBSが疑われ染色体検査とFISH法が依頼された。
【検査結果】
心臓超音波検査において大動脈弁上狭窄と抹消性肺動脈狭窄が認められ、心電図検査にてRVHパターンを示した。染色体検査とFISH法より:47,XXY.ish del(7)(q11.23q11.23)(ELN-)[30]が認められた。
【結語】
WBSは、隣接遺伝子症候群でELN遺伝子、LIMk-1遺伝子などの欠失が証明されているが、臨床症状においては多岐にわたるため確定診断が必要である。しかし、通常の染色体分析では、染色体異常は確認できないためFISH法によるELN遺伝子欠失の同定が確定診断となっている。本症例は、Klinefelter症候群を合併しているためFISH法によるELN遺伝子の欠失のみの検索だけではなく、他の染色体異常の可能性も含めた染色体分析が必要であった。
今日、分子遺伝学の進歩により遺伝子診断が可能な疾患が増加しているが、染色体分析も欠かせない検査法と考える。
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