ヒトのトロポエラスチン遺伝子多型は生体外自己組織化やエラスチン様ポリペプチドの機械的性質を変化させる
Polymorphisms in the human tropoelastin gene modify in vitro self-assembly and mechanical properties of elastin-like polypeptides.
He D, Miao M, Sitarz EE, Muiznieks LD, Reichheld S, Stahl RJ, Keeley FW, Parkinson J.
Program in Molecular Structure and Function, Hospital for Sick Children, Toronto, Ontario, Canada ; Department of Molecular Genetics, University of Toronto, Toronto, Ontario, Canada.
PLoS One. 2012;7(9):e46130. doi: 10.1371/journal.pone.0046130. Epub 2012 Sep 25.
エラスチンは動脈・肺・皮膚などの臓器に伸縮性や反跳性などの機能を提供する弾性繊維の主要な構造要素である。特筆すべきことは、エラスチンが最初に生成された以降、通常であれば一生を通じてこのタンパク質は継続的な代謝回転が行われないことである。従って、エラスチン繊維は耐久性に非常に優れており、例えばヒトの胸部動脈の場合、機械的な故障なしに数十億回の拡張と収縮サイクルに耐えることが出来る。エラスチン遺伝子(ELN)の主要な欠陥は大動脈弁上狭窄症、ウィリアムズ症候群、 常染色体優性遺伝性皮膚弛緩症など多くの疾患の合併症である。エラスチン遺伝子の代謝回転の低さと弾性繊維が長期耐性を要求されていることから、我々はヒトの微少なエラスチン遺伝子多型が弾性組織の会合や長期耐性にあたえる影響の可能性を調査した。遺伝子変異データを調査したところヒトのエラスチン遺伝子に118種の突然変異を同定し、17種類はアミノ酸が置換しない遺伝子変異であった。これらの突然変異の内の2種類、G422SとK463Rのトロポエラスチン全長と同様のエラスチン様ポリペプチドへの導入は、その組成と機械的性質の両方を変異させる。最も有名なG422Sはヨーロッパ人種の40%にみられるが、弾性性質を高めることが分かっている。これらの研究から、ヒトのエラスチン遺伝子の明らかに些細な多型でも、弾性基質の組成と機械的性質に影響を与え、生涯にわたるその影響は循環器系疾患の易罹患性を変化させることになる。
訳者注:トロポエラスチン(エラスチン前駆体の可溶性タンパク質)。
(2012年10月)
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