(1998年6月)
最近メーリングリストに投稿された、ウイリアムス症候群の軽症のケースについてと、
FISHテストの結果の持つ意味について少し付け加えたいと思います。
テリーが正確に指摘したように、ウイリアムス症候群の一つ一つの症状や特徴は、重
いものから、正常範囲に入る程度のものまでかなりのばらつきがあります。つまり、症状
のいくつかがたまたま同じように軽症だったということはあるでしょう。以前のメールで
軽症と呼ばれていたのは、このようなケースです。
FISHテストの意味を理解するために、遺伝子の基礎的知識について少し復習して
みましょう。ご存知のように、ウイリアムス症候群は、7番染色体の長腕(7q11.23 領域)
における顕微鏡分解能以下(普通の染色法による染色体の顕微鏡観察では見えない)の微
少欠失が原因です。通常、DNA断片の大きさは、核酸(あるいは単に塩基と呼ばれるこ
ともある)という構成要素の数で示されます。7番染色体は1億7千万個の核酸で構成さ
れています。ウイリアムス症候群の欠失の大きさは、「わずか!」核酸2百万個にすぎま
せん。遺伝子の大きさはだいたい核酸千個から百万個の範囲です。
最近の遺伝子研究によれば、ウイリアムス症候群で欠失している2百万個の核酸には、
10個から20個の遺伝子が含まれています。だからと言って、これらの遺伝子全部がウ
イリアムス症候群の発症に寄与しているわけではありません。ウイリアムス症候群の人た
ちには、一部分が欠けている染色体に加えて、完全に正常な7番染色体をもう一つ持って
いることを思い出してください。遺伝子の多くは、機能をはたすのに一つあれば十分です。
ある遺伝子、たとえばエラスチン遺伝子の片方の欠失は、ウイリアムス症候群の発症
に寄与しています。エラスチン遺伝子だけが欠失したり、突然変異を起した人は、大動脈
弁上狭窄(SVAS)になりますが、ウイリアムス症候群のその他の特徴はありません。
(この症状を、孤発性(isolated)大動脈弁上狭窄と呼びます)。ウイリアムス症候群の人
のエラスチン遺伝子の欠失は、ウイリアムス症候群の患者の多くがSVASを持っている
ことの原因であることは明らかです。同時に、ウイリアムス症候群が発症するには、少な
くとももう一つ別の遺伝子の欠失が必要なことも明らかです。
FISHテストは、ウイリアムス症候群やその疑いのある患者の欠失を探るためのプ
ローブとして、核酸4万個からなるDNAを使います。このDNA断片は、核酸2百万個
からなるウイリアムス症候群の欠失領域の中央部に位置することが多いエラスチン遺伝子
の一部を含んでいます。もし、7番染色体の片方からこの断片が失われていれば、この患
者は「FISH陽性」だと言われます。FISH陽性の人は、ウイリアムス症候群である
可能性があります。しかし全員ではありません。例えば、孤発性大動脈弁上狭窄の患者の
一部は、やはりFISHテストで陽性を示します。さらに、臨床的にウイリアムス症候群
と診断された患者の5〜10%は、FISHテストで陰性を示します。この違いは、FI
SHテストが、ウイリアムス症候群の典型的な欠失領域より小さな欠失を検出しているこ
とから説明がつきます。つまり、エラスチン遺伝子を含まない部分的欠失を見逃している
かもしれないのです。
つまり、FISH陽性という検査結果は、この人には核酸2百万個の欠失があり、ウ イリアムス症候群であることの指標になります。しかし、次の2点に注意が必要です。
Zsolt Urban
Pacific Biomedical Research Center, University of Hawaii
(ハワイ大学太平洋生命医学研究センター)
何人かの人が述べている「軽症のウイリアムス症候群」については、少し誤解がある
ように感じています。エリックも言っているように、私の知る限り(医学アドバイザーと
の議論も踏まえて)、この症候群には軽症というものはありません。しかし、症候群の患
者が示すいろいろな症状の程度はばらつきがあります。例えば、心臓疾患は、持っていな
い人から命に関わる人まで差があるし、学習障害も軽度から重度まで、聴覚過敏も無い人
から非常に問題になる人まで、など違いがあります。
いくつかの症状の程度や、どのような症状を持っているかいないかに関わらず、欠失
があればウイリアムス症候群なのです。
参考になるでしょうか。
テリー