エベロリムスは患者から導出された多能性幹細胞由来の循環器系平滑筋細胞におけるエラスチン不全表現型を回復する
Everolimus Rescues the Phenotype of Elastin Insufficiency in Patient Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Vascular Smooth Muscle Cells.
Kinnear C(1)(2), Agrawal R(1), Loo C(3), Pahnke A(4)(5), Rodrigues DC(2), Thompson T(2), Akinrinade O(1), Ahadian S(4)(5), Keeley F(6)(7), Radisic M(4)(5), Mital S(1)(8), Ellis J(2)(3).
Author information:
(1)From the Program in Genetics and Genome Biology, The Hospital for Sick Children, Toronto, Ontario, Canada (C.K., R.A., O.A., S.M.).
(2)Program in Developmental and Stem Cell Biology, The Hospital for Sick Children, Toronto, Ontario, Canada (C.L., D.C.R., T.T., J.E.).
(3)Department of Molecular Genetics, University of Toronto, Ontario, Canada (C.L., J.E.).
(4)Institute of Biomaterials and Biomedical Engineering, University of Toronto, Ontario, Canada (A.P., S.A., M.R.).
(5)Department of Chemical Engineering and Applied Chemistry, University of Toronto, Ontario, Canada (A.P., S.A., M.R.).
(6)Department of Biochemistry, University of Toronto, Ontario, Canada (F.K.).
(7)Program in Molecular Medicine, The Hospital for Sick Children, Toronto, Ontario, Canada (F.K.).
(8)Department of Pediatrics, The Hospital for Sick Children, University of Toronto, Ontario, Canada (S.M.).
Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2020 Mar 26:ATVBAHA119313936. doi: 10.1161/ATVBAHA.119.313936. [Epub ahead of print]
【目的】エラスチン遺伝子の欠失や突然変異は、循環器系平滑筋細胞の増殖による動脈の狭窄につながる。ヒトから導出された多能性幹細胞由来の循環器系平滑筋細胞は試験管内におけるエラスチン不全のモデルになりえるが、ラパマイシンによる治療は部分的な回復しか実現できない。本研究の目的はエラスチン不全の患者における循環器系平滑筋細胞の表現型の回復に対して優れた効果を示す薬の候補を同定することである。
【方法と結果】循環器系狭窄を繰り返し発生させている5人のエラスチン不全患者(ウィリアムズ症候群3人とエラスチン突然変異2人)から導出された多能性幹細胞由来の循環器系平滑筋細胞は、表現型として未成熟であり、増殖過剰であり、エンドセリンに対する反応に乏しく、3次元の平滑筋細胞からなる生体繊維としての弾性の減少を示す。平滑筋細胞内のエラスチンのmRNAとタンパク質は、健康な対照群に比べて本疾患の患者では減少している。患者の平滑筋細胞に対して14種類の候補薬で試験を行った。3人のウィリアムズ症候群患者以外の全患者の平滑筋細胞において、哺乳類を対象としたラパマイシン阻害剤の研究結果によれば、エベロリムスは分化を修復して、増殖過剰からの回復や、エンドセリンから導出されたカルシウム流の改善がみられた。カルシウムチャンネル阻害薬としてのベラパミルは、ウィリアムズ症候群の細胞では平滑筋細胞の分化を増加させるとともに増殖過剰は抑制するが、エラスチン突然変異の患者ではその現象はみられず、エンドセリン反応には効果はない。エベロリムスとベラパミルを組み合わせた治療は、エベロリムス単独の治療と比較して優位性はない。その他の候補薬剤は限定的な効果しかなかった。
【結論】エベロリムスは、平滑筋細胞の分化や増殖過剰、症候性及び非症候性エラスチン不全の両患者の平滑筋細胞機能に対して一貫した改善効果があるため、脈管障害に合併するエラスチン不全の治療に用いるための、別の目的で使う薬剤の最良の候補となる。
【訳者注】
エベロリムス:everolimus=免疫抑制薬、mTOR阻害作用
ラパマイシン:rapamycin=免疫抑制薬、FKBPに結合しサイトカイン産生を阻害
エンドセリン:endothelin=生理活性ペプチドファミリーで、主に血管内皮が産生する血管収縮物質を含む
ベラパミル:verapamil=抗不整脈薬、フェニルアルキルアミン系カルシウム拮抗薬
(2020年3月)
目次に戻る