ウィリアムズ症候群と重度末梢性肺動脈狭窄症を有する患者のプロスタグランジンI(2)合成酵素の稀少な変異の同定
Identification of Prostaglandin I(2) Synthase Rare Variants in Patients With Williams Syndrome and Severe Peripheral Pulmonary Stenosis.
永井 礼子(1)(2), 赤川 浩之(3), 澤井 彩織(1), Ma YJ(4), 八鍬 聡(5), 宗内 淳(6), 安田 和志(7), 山澤 弘州(1), 山本 俊至(8), 高桑 恵美(9), 外丸 詩野(9), 古谷 喜幸(2), 加藤 達哉(10), 原田 元(2), 稲井 慶(2), 中西 敏雄(2), 真部 淳(1), 武田 充人(1), Jing ZC(11).
Author information:
(1) 北海道大学大学院医学研究院 生殖・発達医学分野 小児科学教室
(2) 東京女子医科大学 医学部 循環器小児・成人先天性疾患科
(3) 東京女子医科大学 総合医科学研究所
(4)Department of Cardiology, Peking Union Medical College Hospital Peking Union Medical College and Chinese Academy of Medical Sciences Beijing China.
(5) JA北海道厚生連 帯広厚生病院 小児科
(6) 独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)九州病院 小児科
(7) あいち小児保健医療総合センター 循環器科
(8) 東京女子医科大学 医学部 ゲノム診療科
(9) 北海道大学病院 病理部/病理診断科
(10) 北海道大学病院 呼吸器外科
(11)Department of Cardiology, Guangdong Cardiovascular Institute, Guangdong Provincial People's Hospital Guangdong Academy of Medical Sciences Southern Medical University Guangzhou China.
J Am Heart Assoc. 2024 Apr 19:e032872. doi: 10.1161/JAHA.123.032872. Online ahead of print.
背景:末梢性肺動脈狭窄症は肺への血流を妨げる肺動脈の狭窄を特徴とする疾患である。末梢性肺動脈狭窄症の病態形成の機構は不明なままである。ここに、本研究の目的は重度の末梢性肺動脈狭窄症を有する患者の遺伝子的背景を調査し、この疾患の病理を明らかにすることである。
手法と結果:我々は末梢性肺動脈狭窄症とウィリアムズ症候群を有する小児患者に対して遺伝子検査と機能検査を行い、その後、ウィリアムズ症候群と軽度から重度の末梢性肺動脈狭窄症を有する患者12人、ウィリアムズ症候群で末梢性肺動脈狭窄症を有していない患者50人、重度の末梢性肺動脈狭窄症を有するがウィリアムズ症候群ではない患者21人の遺伝子検査を行った。全エクソーム解析を行ったところ、ウィリアムズ症候群と重度の末梢性肺動脈狭窄症を有する患者からPTGISナンセンス変異(p.E314X)が特定された。PTGISの野生株型p.E314X符号化構成が導入された細胞に比べて、PTGIS p.E314X変異符号化構成が遺伝子導入された細胞では、プロスタグランジンI2合成酵素(PTGIS)の発現は有意に下方制御され、細胞の増殖と遊走比率は有意に増大していた。p.E314Xはヒトの肺動脈内皮細胞で菅形成能力を減少させ、ヒトの肺動脈内皮細胞と肺動脈平滑筋細胞の両方でカスパーゼ3/7の活性を低下させた。健康な対照群と比較して、末梢性肺動脈狭窄症の患者は肺動脈内皮におけるプロスタグランジンI2合成レベルと尿中のプロスタグランジンI代謝レベルが下方制御されている。ウィリアムズ症候群と重度の末梢性肺動脈狭窄症を有する他の小児患者から稀少な別のPTGISスプライス部位変異(c.1358+2T>C)を同定した。
手法と結果:全体として、2種類の稀少なPTGISナンセンス/スプライス部位変異がウィリアムズ症候群と重度の末梢性肺動脈狭窄症を有する小児患者で特定された。PTGIS変異が末梢性肺動脈狭窄症の病理の一因になっている可能性があり、PTGISは効果的な治療ターゲットを表している可能がある。
(2024年4月)
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2024年4月24日に、北海道大学病院と東京女子医科大学の連名で下記タイトルのニュースリリースが発信されています。
「ウィリアムズ症候群に合併する末梢性肺動脈狭窄症の 重症化の原因を同定 〜治療ターゲットとしての PTGIS 遺伝子の可能性〜」
(2024年5月)
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