細胞骨格制御におけるLIMキナーゼファミリーの役割



6年前からLIMキナーゼ1の基礎研究として、細胞内での役割を調査しておられる水野教 授が生物学教室セミナー(第1805回)として1999年7月16日に行われた講演の紹介文で す。 ホームページに掲載されていました。

(1999年8月)

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東北大学理学研究科生物学専攻分子生理学分野
水野 健作 教授

  プロテインキナーゼは細胞内情報伝達において中心的な役割を果たしている。私達の 同定したLIMキナーゼファミリー(LIMK1, LIMK2, TESK1を含む)はLIMドメインやPDZド メインを分子内にもつ新しいクラスのプロテインキナーゼであり、これらの細胞機能を明 らかにすることによって、未知の細胞内シグナル伝達経路が解明できるものと考え、研究 を進めてきた。今回は、アクチン細胞骨格の制御におけるLIMキナーゼファミリーの役割 について、私たちの研究を紹介したい。

  アクチン細胞骨格は細胞の形態を維持する上で重要なばかりでなく、細胞外からのシ グナルに応答してダイナミックに変化しており、このような細胞骨格のリモデリングは細 胞の運動、接着、形態変化、細胞分裂など細胞の基本活動において重要な役割を果たして いる。しかしながら、細胞外シグナルをアクチン細胞骨格の変化に結びつける細胞内情報 伝達経路については不明の点が多く残されている。私たちは、LIMキナーゼがF-アクチン に結合すること、LIMキナーゼを過剰発現した細胞では重合アクチンの顕著な蓄積がみられ ることを見出した。また、LIMキナーゼファミリーがRhoファミリー低分子量GTP結合蛋白 質であるRacの下流因子として活性化され、アクチン脱重合因子であるコフィリンをリン 酸化・不活性化することを見出した。この結果は、LIMキナーゼがコフィリンをリン酸化す ることで結果的にアクチンの重合が促進されることを意味しており、アクチン細胞骨格の 再構築におけるRac→LIMキナーゼ→コフィリンというシグナル伝達径路の存在を示唆する ものである。

  また、LIMキナーゼ1は脳神経系に高発現しており、ウイリアムス症候群の原因遺伝子 として空間認知の障害に関与していることが示唆されている。神経系におけるLIMキナー ゼの役割について、現在の私たちのアプローチについても紹介する。

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