LIMキナーゼによるコフィリンのリン酸化とアクチン細胞骨格の制御



水野 健作
東北大学大学院理学研究科生物学専攻
「生化学」 第71巻 第5号 1999年5月, Page 345-350

水野教授からいただいた「生化学」の「ミニレビュー」に掲載された論文抜刷の第5節だけを 抜き出しました。

(1999年12月)

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5.ウイリアムス症候群とLIMK1の神経機能

LIMK1遺伝子はヒト染色体上の第7染色体7q11.23にマップされるが、この位置はウイリアムス 症候群とよばれるヒト遺伝病で半接合体欠失のみられる位置に相当する。ウイリアムス症候群 は、エラスチン遺伝子を含む染色体7q11.23近辺の幅広い領域の半接合体欠失によって生ずる隣 接遺伝子症候群として知られており、エラスチン遺伝子の欠失による大動脈弁上狭窄ならびに 隣接する未知遺伝子の欠失によって引き起こされると考えられるさまざまな症状(特徴的な顔 貌、視覚性空間認知障害、精神遅滞、幼児期の高カルシウム血症など)を伴う。Frangiskakis らは、LIMK1遺伝子がエラスチン遺伝子のごく近傍15.4kbに隣接して存在することを見いだし た。彼らは、また、LIMK1とエラスチン遺伝子のみを含む83.6kbの短い領域の染色体を欠失した ウイリアムス症候群の一家系を見いだし、大動脈弁上狭窄と空間認知障害のみが見られること から、LIMK1遺伝子の欠失が空間認知障害の原因であると推論した。視覚性空間認知障害とは、 視覚は正常であるが、空間認知能、統合能を欠くため、部分は認知できるが、部分から全体を 空間的に統合して正しくとらえることのできない障害であり、積み木細工や模写に障害が見ら れる。LIMK1は、胎生期の脳神経系に高発現していることと考えあわせると、神経発生過程に 関与していることが示唆される。また、培養神経細胞では、LIMK1は神経突起の先端部である 成長円錐に高く局在している。成長円錐におけるアクチンの再構築は神経突起伸展の方向性の 決定やシナプス形成の可塑性に重要であると考えられ、LIMK1は成長円錐におけるアクチン骨 格の再構築を制御することにより、神経突起の伸展やシナプス形成など神経回路の形成に関与 していると推定される。

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