ウィリアムス症候群における空間認知障害の病因に関する基礎的研究



文部省 平成10年度 特定領域研究A「脳研究の総合的推進に関する研究」領域代表者:濱 清 (岡崎国立共同研究機構生理学研究所・名誉教授) 略称「総合脳」の平成12年度研究公募研究 の一つとして表記テーマが選択されています。下記は6月に行われた「総合脳」公募班班会議 の抄録です。詳しくはホームページを参照してく ださい。

(2000年7月)

−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−

ウイリアムス症候群における空間認知障害の病因に関する基礎的研究

水野 健作
東北大学 大学院理学研究科

ウイリアムス症候群は、エラスチン遺伝子を含む染色体7q11.23領域の半接合体欠失によって 生じる隣接遺伝子症候群で、エラスチン遺伝子の欠失による動脈狭窄ならびに隣接遺伝子の欠 失による種々の症状を伴う。Keating らは、LIMキナーゼ1 (LIMK1)遺伝子の欠失が本症候群 に見られる視覚性空間認知障害の原因であることを示した。私たちは、これに先立ってLIMK1 を同定し、胎生期の脳神経系に高発現し、コフィリンをリン酸化することによってアクチン細 胞骨格の再構築を制御するキナーゼであることを明らかにした。アクチン骨格の再構築は、神 経突起の伸展、経路選択、シナプス形成に必須であると推定されるので、本研究では、神経回 路形成過程におけるLIMK1の機能を細胞レベルで解明すると同時に、LIMK1遺伝子欠失マウス の表現型を解析し、ウイリアムス症候群における空間認知障害の病因を細胞、個体レベルで解 明したい。今回は、研究の背景と細胞レベルでの機能解析の結果を報告する。

−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−

研究実績報告が掲載されていました。

(2008年7月)

−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−

研究実績報告
報告年度 2000
研究期間 2000-2001
研究課題番号 12050206
研究課題名 ウイリアムス症候群における空間認知障害の病因に関する基礎的研究
研究代表者 水野 健作  (ミズノ ケンサク) 東北大学・大学院・理学研究科・教授
研究代表者番号 70128396
研究機関 東北大学 研究機関番号:11301
研究分担者 藤森 俊彦 (フジモリ トシヒコ)  京都大学・大学院・医学研究科.  
研究種目 特定領域研究(A) 研究種目コード:031
キーワード ウイリアムス症候群 / LIMキナーゼ / アクチン細胞骨格 / コフィリン / 神経成長円錐 / Rho / 神経回路形成

ウイリアムス症候群は、エラスチン遺伝子を含む染色体7q11.23領域の半接合体欠失によって生じる隣接遺伝子症候群で、エラスチン遺伝子の欠失による動脈狭窄と、隣接遺伝子の欠失による種々の症状を伴う。エラスチン遺伝子に隣接するLIMキナーゼ1(LIMK1)遺伝子の欠失はウイリアムス症候群に見られる視覚性空間認知障害の原因であることが示唆されている。私たちは、胚発生過程の脳神経系に高発現する新規プロテインキナーゼとしてLIMK1を同定し、その遺伝子座を7q11.23と決定した。また、アクチン細胞骨格の再構築におけるRac,Rho→LIMK1→コフィリンというシグナル経路の存在を明らかにした。本研究では、神経回路形成過程におけるLIMK1の機能を細胞レベルで解析した。また、LIMK1遺伝子欠失マウスを作成し、その表現型の解析を目指した。

  1. 神経芽細胞腫N1E-115細胞における血清、LPAや活性型Rhoによる神経突起の退縮過程において、LIMKの活性化とコフィリンのリン酸化が誘導され、突起の退縮に関与していることを明らかにした。また、小脳顆粒細胞において活性型ROCKによる軸索形成の減少がLIMキナーゼのドミナントネガティブ体の発現により阻害されることを明らかにし、LIMKがRhoの下流因子として神経突起の退縮経路に関与していることを示した(京大、尾藤らとの共同研究)。
  2. セマフォリンによる脊髄後根神経節細胞の神経突起退縮過程において、LIMKによるコフィリンのリン酸化経路が重要な役割を果たしていることを明らかにした(臨床研、藍沢らとの共同研究)。
  3. ショウジョウバエのLIMK遺伝子を同定し、コフィリンをリン酸化し、アクチン骨格の再構築を誘導することを明らかにした。
  4. LIMK1遺伝子欠失マウスの作成は順調に進んでおり、現在その表現型の解析を進めている。


研究実績報告
報告年度 2001
研究期間 2000-2001
研究課題番号 12050206
研究課題名 ウイリアムス症候群における空間認知障害の病因に関する基礎的研究
研究代表者 水野 健作  (ミズノ,ケンサク) 東北大学・大学院・生命科学研究科・教授
研究代表者番号 70128396
研究機関 東北大学 研究機関番号:11301
研究分担者 藤森 俊彦 (フジモリ トシヒコ)  京都大学・大学院・医学研究科.  研究種目 特定領域研究(A) 研究種目コード:031
キーワード ウイリアムス症候群 / LIMキナーゼ / アクチン細胞骨格 / コフィリン / 神経成長円錐 / 神経ガイダンス / 視覚性空間認知 / Rho

ウイリアムス症候群は、ヒト染色体7q11.23領域の半接合体欠失によって生じる隣接遺伝子症候群で、エラスチン遺伝子欠失による動脈狭窄と隣接遺伝子の欠失による種々の症状を伴う。本症候群に見られる視覚性空間認知障害は、LIMキナーゼ1(LIMK1)遺伝子の欠失とリンクしてる可能性が示唆されている。私達は、LIMK1がアクチン脱重合因子コフィリンを特異的にリン酸化することを見い出し、アクチン骨格の再構築におけるRac, Rho→LIMK1→コフィリンというシグナル経路の存在を明らかにした。コフィリンはアクチンフィラメントのターンオーバー速度を速め、糸状仮足、葉状仮足の形成や細胞移動に必須の因子であり、神経細胞では神経突起の伸展・退縮に関与することが推定される。私達は、トリDRG細胞を用い、神経突起伸展におけるLIMK1の役割をタイムラプスシステムを用いて解析した。その結果、LIMK1の過剰発現により、成長円錐の運動性が抑制され、伸展速度の減少がみられた。キナーゼ不活性型LIMK1の導入により、成長円錐が広がり、糸状突起の増加が見られた。また、コフィリンの導入により、成長円錐の運動性と伸展速度の上昇が観察されたが、成長円錐の形態は細く異常となった。これらの結果から、LIMK1による局所的なコフィリンのリン酸化は成長円錐の運動性に関与しており、リン酸化、脱リン酸化によるコフィリン活性の適度な調節が重要な役割を果たしていることが示唆された。一方、京大上村らとの共同研究により、コフィリンを脱リン酸化するホスファターゼとしてSlingshotを同定したので、成長円錐の運動性と形態形成におけるSlingshotの役割は今後解明すべき重要な課題である。また、LIMK1遺伝子変異マウスを用いて、空間認知障害の機構を個体レベルで解明することが今後の最も重要な課題である。



目次に戻る