VI. ウィリアムズ症候群における遺伝子構造と認知地図



VI. Genome Structure and Cognitive Map of Williams Syndrome.

Korenberg JR 1), Chen XN 1), 広田 浜夫 1), Lai Z 2), Bellugi U 2), Burian D 3), Roe B 3), 松岡 瑠美子 4)
Cedars-Sinai Medical Center and University of California, Los Angeles. 1), The Salk Institute for Biological Studies 2), University of Oklahoma 3), 東京女子医科大学 4)
J Cogn Neurosci 2000 Mar;12 Suppl 1(1):89-107

ウィリアムズ症候群はヒトの認知・ヒトゲノム機構・進化などを解明する有力なモデルで ある。染色体7q11.23バンドの欠失が原因で、患者は循環器系・結合組織・神経発達に障 害が発生する。空間視処理や全体把握能力に劣り、言語処理や相貌認識能力は維持され、 過度に社交性があり感情的に影響され易いという神経認知分野における顕著な長所短所が あることから、これらの特徴の責任遺伝子の同定、欠失の原因の探求と霊長類の進化の過 程における起因などを本研究の目的としている。このために、バクテリア人口染色体(BAC) やP1人口染色体(PAC)を使った分裂中期や中間期(metaphase and interphase)の多色FISH 検査、BACエンド配列解析(BAC end sequencing)、PCR遺伝子マーカとマイクロサテライト、 大規模配列解析、相補DNAライブラリー、データベース解析などを用いてウィリアムズ症 候群領域とそれに隣接する領域の統合的な物理マップ・遺伝子マップ・転写マップを作成 した。この結果、比較的大きな単一コピー領域に隣接して2つの入れ子になった複製領域 を持つというウィリアムズ症候群領域の機構が明らかになった。そこには少なくとも2ヶ 所欠失につながる共通的なブレークポイントが存在する。1ヶ所は反復領域の動原体側に存 在し、少なくとも2ヵ所がテロメア側に存在する。複製領域だけに固着されるクローンは3 種類の新しい偽遺伝子ファミリーによって構成されている。霊長類の研究から、ウィリア ムズ症候群領域における染色体転置につながる進化的ホットスポットの存在が明らかにな った。ウィリアムズ症候群の認知発現マップが提示されている。このマップはこれまでの 研究データに、欠失を持つ5人のウィリアムズ症候群患者と3人の非典型患者のデータが 追加されている。この3人のうち、2人は欠失範囲が大きく(D7S489Lまで欠失)、1人は小 さい(FZD9のテロメア側からLIMK1までで、WSCR1やテロメア側は含まれていない)。この 結果は領域を特定し、その結果として精神遅滞や過度の社交性や相貌認識を含むウィリア ムズ症候群の特徴の責任遺伝子候補を確定している。このアプローチは、神経解剖学的・ 機能的・行動的帰結につながり、最終的にはヒトの認知機能の遺伝子的支柱を探す筋道の 基礎を提供する。

(2000年8月)

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本文中にあるウィリアムズ症候群の表現型に関する表を紹介します。

(2000年10月)

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表1 主なウィリアムズ症候群の表現型(Page 90)


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