高カルシウム血症による嘔吐と体重減少を来したWilliams症候群
川又 竜、山形 崇倫、森 雅人、桃井 真里子
自治医科大学 小児科学
小児科臨床 Vol.61 No.8 2008、1699-1703ページ
はじめに:
Williams症候群は、特徴的な顔貌、精神遅滞や成長障害、大動脈弁上狭窄などの心疾患、高カルシウム(Ca)血症などを呈する症候群である。特に、心疾患として、大動脈弁上狭窄が特徴的であるが、大動脈弁上狭窄がない例や、特徴的な症状が揃わない例では、診断が遅れることが多い。今回、高カルシウム血症により、乳児期後期の嘔吐・不機嫌、体重増加不良、活動性低下などの症状が出現したWilliams症候群の1男児例を経験した。Williams症候群で高カルシウム血症は10〜15%に合併し、症候化することはさらに少ないが、乳児期、幼児期早期に診断、治療することは重要である。
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経過:
高カルシウム血症により嘔吐、体重増加不良を起こしたと考え、高カルシウム血症対する緊急治療として、生理食塩水(100ml/kg/d)の輸液付加、およびFurosemide 0.5mg/kgの静脈内注射によるCaの強制排尿を開始した。哺乳は低カルシウムミルク(森永、Ca 20mg/100ml)を用い、経口食と合わせてCa 200mg/day以下と制限をした。治療開始12時間後には血清Ca値は13.8mg/dl、18時間には11.8mg/dlと低下した。血清Ca値低下とともに、活気も出始め、笑うなど表情も豊かになってきた。筋緊張低下も改善し、入院当初はほとんど臥位だったが、入院2日後ごろから長時間の座位も可能になり、嘔気、嘔吐もなくなり、経口摂取の大幅に改善した。入院前にはミルクが主体で固形食はほとんど摂取ができなかったが、症状軽快後にはペースト状の離乳食を毎食ほぼ完食できるようになった。Furosmideは入院4日目までは継続して中止した。入院5日目には血清Ca値は10.4mg/dlまで低下し、生理食塩水による利尿負荷も中止し、食事療法のみ継続した。その後も症状の悪化はなく、入院11日目で血清Ca排泄も、入院時は1.81と高値だったが、入院11日目には0.21と正常化した。
特異的顔貌、心疾患、精神運動発達遅滞などの症状からWilliams症候群を疑い、家族の承諾を得たうえでFISH法による染色体検査を行い、7番染色体長腕(7q11.23)の欠失を認め、Williams症候群と確定診断した。高カルシウム血症の原因もWilliams症候群に伴うものと考えた。
食事療法(ミルクと離乳食を含め、1日のCa摂取量はおよそ200mg程度、年齢的な必要量は400〜500mg/day)のみでのCa維持が可能であり、入院13日目に退院し外来経過観察とした。退院後の経口摂取も良好で、嘔吐は1日1〜2回程度見られていたが、体重増加は比較的良好となった。
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(2008年10月)
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