送血管による大動脈損傷が疑われたWilliams症候群の 1例
厚美直孝、川島 大、中山至誠
東京都立八王子小児病院 心臓血管外科
第147回日本胸部外科学会 関東甲信越地方会要旨集 9ページ
2008 年 9 月 6 日
症例は 9 歳、女児、体重30kg。Williams症候群、大動脈弁上狭窄症の診断でDoty手術を施行した。術前、左室大動脈圧較差61mmHg、最狭窄部径5.9mm、上行大動脈径7.1mm。最狭窄部を自己心膜で裏打ちした逆Y字型のGore-Texパッチで拡大した。pump off後、術野エコーで送血管挿入部対側の内膜に解離腔ではない隆起を認め、60mmHgの圧較差あり。再遮断して同部をパッチ拡大した。退院後のCTでは上行大動脈に狭窄の残存は認めなかった。
(2008年10月)
−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
ほぼ同じタイトル「送血管による大動脈損傷が疑われたWilliams症候群」の論文が雑誌に投稿されました。
(2010年12月)
−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−=−
厚美直孝、中山至誠、川島 大
東京都立八王子小児病院 心臓血管外科
東京大学 心臓外科
胸部外科 Vol63 No9(2010年8月) 786-789ページ
略
I.症例
症例:
主訴:
家族歴:
既往歴:
現病歴:在胎38週0日、体重2695g、正常分娩で出生した。生後一1ヵ月で心雑音を主訴に当院を受診し、Williams症候群と診断された。大動脈弁上狭窄に対する手術適応がないため、外来で経過観察されていた。2007年10月の心臓カテーテル検査で圧較差の増大を認めたため、2008年3月に手術目的で入院した。
入院時現症:身長129cm、体重30kg、小妖精様顔貌を認め、胸骨右縁3肋間に収縮期駆出性雑音(Levine分類W/Y度)を認めた。
術前心臓カテーテル所見:上行大動脈圧145/55mmHg、下行大動脈圧87/57mmHgであり、大動脈弁上で55mmHgの圧較差を認めた。右心系では肺動脈に軽度の圧較差を認めた。
大動脈造影所見:大動脈弁上狭窄に加えて、狭小な上行大動脈、右大動脈弓、左鎖骨下動脈起始異常を認めた。大動脈弁上部径は正側ともに5.9mm、上行大動脈径は正面で11.6mm、側面では7.1mmであった。
手術所見:全身麻酔下、胸骨正中切開でアプローチし、左総頚動脈起始部の上行大動脈から送血し上下大静脈脱血で体外循環を確立した。送血管は16Frのストレートタイプ(PEDA016SB:Edwards Lifesciences社、Irvine)を用いた。最大送血量は2.85?/分であったが、回路内圧は300mmHg以下で安定していた。術式はDoty法による大動脈弁上拡大術を選択し、自己心膜と0.6mmのePTFEパッチを重ね合わせながら逆Y字状切開の右脚、左脚の順に縫合してパッチ拡大した。
人工心肺からの離脱時に上肢動脈ラインの圧波形が認められず、大動脈起始部で198/54mmHgと著しい高血圧を認めた。経食道エコーでパッチ拡大部に問題がなかったため、体外循環を離脱した。しかし、術野の直接エコーでは、送血管挿入部対側の大動脈壁に長軸方向で長さ2cmの隆起を認め、同部の前後径が2.7mmと狭窄していた。
左総頚動脈に径6mmのePTFEグラフトを吻合し、送血路として体外循環を再開した。弓部分枝直前で大動脈を遮断し送血管挿入部を切開したところ、対側の大動脈に血腫状の隆起を認めた。しかし明らかな内膜亀裂を認めなかったため、0.6mmのePTFEパッチを用いて狭窄を解除した。心拍動再開後、術野エコーで狭窄部は6mmに広がり、圧較差も軽減したため体外循環から離脱して手術を終了した。術後に心嚢ドレナージを要したが軽快し、術後19日に退院した。
術後心臓カテーテル所見:術後4ヵ月で心臓カテーテル検査を行った。上行大動脈圧138/80mmHg、下行大動脈圧120/79mmHgであり、圧較差は18mmHgに改善した。
大動脈造影所見:大動脈弁上部および上行大動脈に狭窄を認めなかったが、側面像で後方からの隆起と前方への拡大により上行大動脈の遠位部に屈曲が認められた。
術後経過:術後1年10ヵ月の現在、心エコーで圧格差の増大や大動脈解離の発生を認めず、患児は元気に日常を送っている。
略
目次に戻る