心臓カテーテル検査中に心停止を来たしたWilliams症候群男児の一剖検例
原田 一樹1)、中嶋 信1)、古谷 道子2)、高橋 香1)、鵜沼 香奈1)、伊藤 貴子13)、坂 幹樹1)、松岡 瑠美子2)、吉田 謙一1)
東大院1)、東女医大・循環器小児2)、九大院3)
日本法医学雑誌 63巻1号81ページ、2009年4月
【事例の概要】
1歳5ヶ月の男児。1歳の時、心エコー、胸部CTにて大動脈弁直上に高度狭窄を認め、特徴的な「妖精用顔貌」とあわせてWilliams症候群(典型的な遺伝子欠失型)と診断された。狭窄部に対する手術適応を検討するために入院した。全身麻酔下に心臓カテーテル検査を開始し、特に問題なく右心系圧、左心系圧の測定や左心室、大動脈造影などを行っていた。開始2時間後より心電図上、ST変化が出現し、血圧も下降し、心配停止となった。蘇生術を施行したが、心拍開始せず死亡が確認された。
【主要剖検所見】
身長、頭囲は同年齢男児の10〜25パーセンタイル、体重は3〜10パーセンタイル。脳は軽度腫脹、大動脈弁直上に、上行大動脈の優位な狭窄を認める。左冠状動脈主幹部の内膜(もしくは中膜)は、開口部より0.8cmまで厚く肥厚し、内腔は狭窄によりスリット状を呈する。動脈管の長さは1.2cmで大動脈側は開存しているが、肺動脈側は閉塞。主要血管の明らかな損傷を認めない。胸腺重量は22.2gで、表面に多数の溢血点を認める。左停留睾丸。血清トリプターゼ濃度は6.3μg/L。
【考察】
Williams症候群は、大動脈弁上の狭窄、特有な顔貌、精神発達遅滞などを示す先天性の遺伝子疾患である。染色体7番にあるエラスチン遺伝子を含む領域の部分欠損によって怒ると考えられている。本症例はもともと、左冠状動脈起始部の著名な狭窄があったところ、心臓カテーテルが誘引となって心筋虚血に陥り死亡したものと推定される。Williams症候群の大動脈弁上の狭窄部に対する手術前には、狭窄部前後の圧較差測定のために心カテ検査が行われることが通例である。しかし、本症例により、検査によって致死的な心筋虚血が引き起こされる可能性があることが示唆された。左冠状動脈起始部に対する組織学的検討もあわせて報告する。
(2010年1月)
目次に戻る