全身麻酔中に左室心筋梗塞をきたし死亡に至ったWilliams症候群の一症例
居石 崇志、清澤 研吉、庄司 康寛、花岡 透子、阿部 世紀、大畑 淳
長野県立こども病院麻酔科
日本小児麻酔学会誌 19巻1号(2013年) 121ページ
【はじめに】
Williams症候群に対する心臓カテーテル検査中、麻酔導入後、心電図異常をきたし死亡に至った一症例について、文献的考察を含め報告する。
【症例】
4か月女児、身長57cm、体重4.9kg。両側肺動脈狭窄とびまん性大動脈狭窄および大動脈弁上狭窄(SVAS)に対する評価目的で、心臓カテーテル検査のため全身麻酔を予定した。麻酔導入は純酸素とミタゾラムで行い、ロクロニウムを用い気管挿管した。麻酔維持は酸素、空気、セボフルレンで行った。麻酔導入後、検査準備中にST変化を伴う心電図異常があり、冠血流低下と判断し酸素投与と輸液負荷で対応したところ、心電図異常は改善したため検査を続行した。再度ST変化を伴う心電図異常を認め、純酸素と輸液負荷で対応するも徐脈、血流低下をきたした。胸骨圧迫、ボスミン投与で蘇生を行うも反応乏しく、緊急に補助循環(ECMO)を導入した。集中治療室へ入室後、心エコー検査では左室壁運動がほとんどみられず、左冠動脈起始部に狭窄を疑わせる所見を認めた。ECMO施行下に冠動脈造影検査を試みたところ、同部位に高度の狭窄を認め、人工心肺下に左冠動脈起始部の拡張術を施行した。冠血流は改善されたが左室壁運動に改善認めず、人工心肺離脱後に再びECMO管理としたが死亡が確認された。病理解剖では左冠動脈灌漑域に広範囲に出血性梗塞所見を認め、また、肺動脈、大動脈にいずれも強い壁肥厚を認めた。後に遺伝子検査の結果、Williams症候群の確定診断に至った。
【考察】
Williams症候群は稀な遺伝子疾患であるが、冠動脈異常による突然死の報告が散見される。SVASの症例は高率に冠動脈異常を合併しており、冠動脈起始部の解剖学的狭窄をきたしていることが報告されている。麻酔前評価で不整脈、冠動脈病変の検出の重要性に加え、外科手術、心臓カテーテル検査などの侵襲的検査の麻酔管理中には、心筋虚血を念頭においた特別な注意が必要である。ACLSに基づく通常の蘇生薬に対する反応にも乏しく、有症状時の対応も検討が必要である。国内外を含めた文献的考察、および1993年3月〜2013年6月に当科で経験した11例のWilliams症候群の麻酔管理と比較して考察する。
(2014年2月)
目次に戻る