Williams症候群の概念が拡大し複雑化する一方、古典的Williams症候群は、臨床上
依然重要な疾患単位であり、しかも診断が困難である例があることも多い症候群である
と認識されている。精神発達障害、特有の顔貌(妖精様顔貌)、SVASを認める古典的
Williams症候群が臨床上重要である理由として、(1)心筋梗塞による突然死が知られてい
ること、(2)SVASは進行性の病変であり、狭窄は成長とともに相対的に高度となり、圧
較差が経時的に増大することが挙げられる。またWilliams症候群の診断が遅れがちにな
る理由としてMorrisらは、(1)加齢とともに特徴的な顔貌となる、(2)無症候性のため心
雑音は無害性と診断されやすい、(3)発達面の遅れは見逃されやすいことなどを挙げてい
る。
本報告は、初めに心エコー検査にてSVASと診断され、その後経過観察中に徐々に
特徴的顔貌が明らかになり、軽度の発達障害もみられたため、Williams症候群と確定診
断した。心エコー検査を日常的に行うことが、SVASひいてはWilliams症候群の早期診
断に寄与していたのは明らかである。しかし、心雑音が診断の契機となっており、臨床
的所見を注意深く観察することは早期診断上、さらに重要であることはいうまでもない。
SVASに伴う心筋梗塞の原因については諸説ある。中でも代表的な説として、大血管
の発生に関係のある心筋層の異常が冠状動脈の発生学的な異常を同時に伴う可能性があ
り、冠状動脈の形成異常が先天的に生じるという、系統的な血管の形成異常を原因とす
る説が挙げられる。本性例はSVASに僧坊弁閉鎖不全症、末梢性肺動脈狭窄症を合併し
ており、心血管造影検査上、左冠状動脈の低形成も疑われていることから、心血管系の
系統的な形成異常が疑われた。その他に、狭窄部より近位での収縮期圧の上昇による冠
状動脈の二次的な変化と考える説があり、OgdenらによるSVASに冠状動脈の拡張を伴
う5例の報告はこの説を支持するものである。また、SVASは大動脈弁の奇形を合併する
ものがあり、それが冠状動脈の起始部を閉塞すると考える説もあり、Allenらによる、左
冠状動脈起始部の閉塞を認めるSVASの報告はこの説を支持する。本症例は7ヶ月時の
心血管造影検査上、狭窄部の圧較差は25mmHgであり、収縮期圧の上昇により二次的に
冠状動脈に変化が生じたとは考えにくい。また、大動脈弁の形態は正常であった。
本症例は心エコー検査上、左心室前壁の心室瘤様の所見とその部分の壁運動の障害
の所見が認められたが、駆出率は左室短軸方向でGibson法により算出したところ68%
であった。この方法は部分的な心筋の運動障害がある場合、心機能が十分に反映されに
くい。しかし病変部以外の左心室の収縮は良好であり、代償性に心機能は保持している
と考えられた。また、瘤が右室側に突出してみられたのは、左右両心室の圧較差のため
と思われた。入院の二ヶ月前に行った心臓カテーテル検査では、末梢性肺動脈狭窄を認
めたものの、右心室圧は110/0mmHg(mean 50mmhg)、左心室圧は125/5mmHg(mean
55mmHg)であった。
本症例では心エコー検査上の所見が、心筋梗塞と診断した最も有力は根拠となった。 心筋逸脱酵素の上昇と心電図上の変化がその裏付けとなった。しかし、一般に幼少児の 心筋梗塞は非常に稀であり、臨床症状も多彩で非特異的であるため見逃され易い傾向が ある。SVASの合併症として心筋梗塞があることは強調されるべきである。
(1999年10月)