新生児期にあるウィリアムズ症候群患者の早期診断における経胸壁心エコーの役割
Role of Transthoracic Echocardiography in Early Diagnosis of Williams Syndrome in the Neonatal Period.
野村 和弘(1)、諸貫 孝久(1)、武内 信一(1)、前田 卓哉(1)、戸田 紘一(2)、小林 俊樹(2)
Author information:
(1)埼玉医科大学病院中央検査部
(2)埼玉医科大学国際医療センター小児心臓科
CASE (Phila). 2022 Oct 21;6(10):462-466. doi: 10.1016/j.case.2022.08.006. eCollection 2022 Dec.
はじめに
ウィリアムズ症候群は多系統疾患であり、顔異形、様々な内分泌や結合組織の疾患、大動脈弁上狭窄や末梢性肺動脈狭窄を含む循環器疾患を伴う成長奇形が特徴である。ウィリアムズ症候群は染色体7q11.23領域の約1.55から1.83Mbの新規欠失が原因であり、出生10,000人に1人の割合で発生する。ウィリアムズ症候群は顔貌特徴によって疑われることが普通であるが、新生児期には気が付かないことが多く、診断時点では合併症が進行している可能性がある。さらに、大動脈弁上狭窄や末梢性肺動脈狭窄の自然臨床進行経過は変化に富んでいて、ウィリアムズ症候群のこれら合併症に対する手術や治療を行う時期は動脈狭窄の進行に依存している。事実として、ウィリアムズ症候群患者においける大動脈弁上狭窄は45%から75%、末梢性肺動脈狭窄は40%で発生すると報告されている。
本報は、ウィリアムズ症候群の診断を受ける前の生後26日時点で大動脈弁上狭窄と末梢性肺動脈狭窄を進行させ、大動脈弁上狭窄は16日間で急速に悪化した患者の症例報告である。本症例は大動脈弁上狭窄と末梢性肺動脈狭窄を呈する新生児に対して経胸壁心エコーを用いた短期経過観察を行い、ウィリアムズ症候群の可能性を念頭に置くことの重要性を強調している。
患者の症状
過去に流産経験がある37歳の女性が妊娠31週1日の時点で胎児発育停止の診断で当病院に入院した。過去に妊娠24週1日の時点で臍帯捻転の診断を受けていた。妊娠37週3日で分娩誘発を予定したが、遅発一過性徐脈が頻発し、緊急帝王切開による出産となった。女児で、体重1,819g、身長42.6p、アプガールスコアは8と9であり、在胎期間は37週3日であった。出生時に患者の心拍数は1分間で156拍であり、血圧は72/28 mm Hg、酸素飽和度は酸素マスクなしで97%であった。予期せぬ成長遅滞が明白であったが、血清検査の結果、TORCH症候群(トキソプラズマ症、その他の感染症、風疹、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスなどを含む一連の新生児感染症)や先天性内分泌異常の疑いは排除された。出生0日で経胸壁心エコーによるスクリーニングを行ったところ、 左室駆出率(LVEF; テイッシュホルツ法) は72%、左心室壁の動きは正常、卵円孔開存、内径1.8oの動脈管開存が認められた。心雑音が観察された後の生後26日時点の経胸壁心エコーによる経過観察結果で、左室駆出率は74%、心室中隔壁の厚さは3.0o(Z値、-0.77)、左心室後壁の厚さは3.0o(Z値、0.47)、 拡張期終端左心室径は16.8o(Z値、-0.29)、収縮期終端左心室径は10.1 mm (Z値、-0.46:ビデオ1)が確認された。左心室肥大と動脈管開存は認められなかった。カラードプラ経胸壁心エコーにより、軽度の大動脈弁閉鎖不全、バルサルバ洞の上部境界から下行大動脈(図1A、ビデオ2)、右肺動脈、左肺動脈(図1B、ビデオ3)に向けてモザイクシグナルが認められた。このため、下行大動脈、主肺動脈、右肺動脈、左肺動脈をバルサルバ洞の上部境界からさらに詳しく観察した結果、顕著な肥厚が観察され、血管の内腔は直径2.2o(Z値、-8.72)まで狭まっており、砂時計型の大動脈弁上狭窄を示していた。上行大動脈(直径、4.1o)、横行大動脈弓(直径、3.8mm; Z値、-4.21)、遠位大動脈弓(直径、3.9mm; Z値、-2.18)は開放されていた。大動脈峡部は直径が2.8o(Z値、-3.66)で少し狭窄しているように見えたが、上行大動脈との吻合部における血流速度は2.94m/secだった(図2B)。主肺動脈は血管内腔が空いており直径は4.4o(Z値、-3.53)だったが、右肺動脈(直径、2.1mm; Z値、-4.42)と左肺動脈(直径、3.4mm; Z値、-1.09)の内腔は狭窄していて、両側性末梢性肺動脈狭窄を呈していた(図3A)。血流速度は右肺動脈で3.61m/sec、左肺動脈で2.90m/secだった(図3B)。経胸壁心エコーによって、右冠動脈の起始部、左冠動脈躯幹、左前縁下行動脈、左回線動脈のすべてはどの検査時点でも一貫して正常であった。両眼窩間が狭い、鞍鼻、豊頬を含むウィリアムズ症候群特有の顔貌特徴は、生後26日時点より42日時点のほうが明白であった。最終的に染色体分析によって7q11.23領域の欠失が確認されてウィリアムズ症候群の診断が確定された。
出生0日で経胸壁心エコーによるスクリーニングを行ったところ、 左室駆出率(LVEF; テイッシュホルツ法) は72%、左心室壁の動きは正常、卵円孔開存、内径1.8oの動脈管開存が認められた。心雑音が観察された後の生後26日時点の経胸壁心エコーによる経過観察結果で、左室駆出率は74%、心室中隔壁の厚さは3.0o(Z値、-0.77)、左心室後壁の厚さは3.0o(Z値、0.47)、 拡張期終端左心室径は16.8o(Z値、-0.29)、収縮期終端左心室径は10.1 mm (Z値、-0.46:ビデオ1)が確認された。左心室肥大と動脈管開存は認められなかった。カラードプラ経胸壁心エコーにより、軽度の大動脈弁閉鎖不全、バルサルバ洞の上部境界から下行大動脈(図1A、ビデオ2)、右肺動脈、左肺動脈(図1B、ビデオ3)に向けてモザイクシグナルが認められた。このため、下行大動脈、主肺動脈、右肺動脈、左肺動脈をバルサルバ洞の上部境界からさらに詳しく観察した結果、顕著な肥厚が観察され、血管の内腔は直径2.2o(Z値、-8.72)まで狭まっており、砂時計型の大動脈弁上狭窄を示していた。上行大動脈(直径、4.1o)、横行大動脈弓(直径、3.8mm; Z値、-4.21)、遠位大動脈弓(直径、3.9mm; Z値、-2.18)は開放されていた。大動脈峡部は直径が2.8o(Z値、-3.66)で少し狭窄しているように見えたが、上行大動脈との吻合部における血流速度は2.94m/secだった(図2B)。主肺動脈は血管内腔が空いており直径は4.4o(Z値、-3.53)だったが、右肺動脈(直径、2.1mm; Z値、-4.42)と左肺動脈(直径、3.4mm; Z値、-1.09)の内腔は狭窄していて、両側性末梢性肺動脈狭窄を呈していた(図3A)。血流速度は右肺動脈で3.61m/sec、左肺動脈で2.90m/secだった(図3B)。経胸壁心エコーによって、右冠動脈の起始部、左冠動脈躯幹、左前縁下行動脈、左回線動脈のすべてはどの検査時点でも一貫して正常であった。両眼窩間が狭い、鞍鼻、豊頬を含むウィリアムズ症候群特有の顔貌特徴は、生後26日時点より42日時点のほうが明白であった。最終的に染色体分析によって7q11.23領域の欠失が確認されてウィリアムズ症候群の診断が確定された。
(2023年1月)
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