症例報告のポイント:希少疾患研究 ウィリアムズ症候群
木村 亮
京都大学大学院医学研究科 形態形成機構学
精神医学 第65巻1号 2023年1月 p21-29
論文概要
ウィリアムズ症候群(Williams syndrome;OMIM#194050)は、2本ある7番染色体のうち、片側の長腕にある25〜27個の遺伝子を含む微小な部分(7q11.23領域)が欠失することによって生じる疾患である。その発症頻度は約1万人に1人で、妖精様と称される特徴的な顔貌、心血管の異常、精神発達の遅れ、視覚認知障害などさまざまな症状がみられる。特に、カクテルパーティ様と言われる高い社交性は特徴的で、多弁・陽気で、見知らぬ人にでも気おくれなく近づく傾向がみられる。その症状は、自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)と真逆であることから、社会性の機序解明の観点から近年注目を集めている。これまでは、失われた遺伝子に着目した研究が進められてきたが、症状と遺伝子の関係については十分に明らかになっていない。
私たちは、ウィリアムズ症候群の症状と遺伝子との関係を明らかにするために、患者家族会などの協力を得て集めた多数の検体に、トランスクリプトーム解析という方法を用いて、すべての染色体上の遺伝子の発現変動を調べた。その結果、ウィリアムズ症候群では失われた場所だけでなく、広範囲にわたって遺伝子の発現に変動があると判明した。さらに、似たような変動パターンを示す遺伝子をグループ化して抽出し調べた結果、空く数の遺伝子群が病気や症状と関連していることが明らかになった。特にウィリアムズ症候群と最も強い相関を示した遺伝子群は、失われた遺伝子以外で構成されており、免疫系と関連していることが明らかになった。さらに、このような大規模な遺伝子の発現変動が生じる要因の1つとしてマイクロRNAが関わっている可能性を見出した。本研究は、多数の検体を用いて、失われた遺伝子以外の遺伝子が病態に関与しているということを明らかにしたという点で、意義のある成果だと考えている。
(2023年9月)
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