脳分離体外循環を用いて上行弓部人工血管置換術を施行したWilliams syndromeの1例
日本心臓血管外科学会 第31回日本心臓血管外科学会学術総会 2000
平成13年2月9日(ビデオ-胸部大動脈1) V-61
山田義明1,山岸正明1,吉田昌弘1,藤原克次1,福本淳1,北村信夫1
(1京都府立医科大学 小児疾患研究施設 小児心臓血管外科)
Williams syndromeの合併心奇形としての大動脈弁上狭窄症に対する根治術としてはパッチ
閉鎖術、extended aortplasty, aortic endartectomy, apicoaorticshunt等さまざまな術
式が考えられるが大動脈弓部分枝まで広範囲に狭窄が及ぶ場合、手術術式、補助循環等工
夫を要する場合がある。今回我々は脳分離体外循環下に人工血管置換術を行い良好な結果
が得られたため報告する。症例は16才男。8才時に大動脈弁上狭窄との診断を受ける。染
色体検査ではWilliams syndromeに特異的な遺伝子欠損を認めている。精神発達遅延は特
に認めず。術前心臓カテーテルでは、左室-大動脈圧較差は60mmHg,大動脈弁輪径は
23.7mm(109% of N)、弓部3分枝にも起始部に狭窄を認めた。腎動脈を含めた腹部分枝、肺
動脈に狭窄所見は無かった。心臓超音波上の大動脈弁上狭窄部の圧較差は54mmHgで、また
軽度の大動脈弁下狭窄も疑われた。手術は胸骨正中切開にてアプローチ。右大腿動脈は径
が細く、胸部下行大動脈送血とした。脳循環は分離回路を用いて弓部3分枝それぞれに送
血し脳分離体外循環を開始した。中等度低体温にて上行大動脈を遮断、心筋保護は初回は
大動脈基部より、その後は持続的逆行性冠還流とした。大動脈を切開。大動脈内腔は著し
く狭小化していた。可及的にS-Tjunctionの弁上狭窄組織を切除した。次に肥厚した中隔
側の心筋を部分的に筋切除した。20mmのHemashield人工血管を中枢側と吻合した後、大動
脈切開を弓部分枝の方向に延長した。腕頭動脈、左総頚動脈の起始部は内腔の狭窄が著し
く、病変のない遠位部で離断した。左鎖骨下動脈は狭窄は軽度で離断しなかった。体格が
小さかったため成人用3分枝付き人工血管は使用不能であった。このためそれぞれの分枝
の末梢側の方向に切開をいれ3分枝を側側吻合し起始部を一本に統合した。ついで人工血
管末梢側をトリミングし、これら一本化した頚部分枝と大動脈、人工血管を吻合した。そ
の後人工血管の側枝から送血を変更し復温した。人工心肺からの離脱は容易。大動脈遮断
時間1:58体外循環時間 2:30、また無輸血で手術を終了した。術後経過は良好で術後17日
目に退院となった。退院前の心臓超音波検査で上行大動脈の流速は1.86m/sでLVOTOも認
められなかった。以上の症例をビデオで供覧する。
(2001年3月)
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