孤発性大動脈弁上狭窄及びウィリアムズ症候群患者におけるエラスチン遺伝子片側不足と細胞増殖率増加との関係



Connection between Elastin Haploinsufficiency and Increased Cell Proliferation in Patients with Supravalvular Aortic Stenosis and Williams-Beuren Syndrome.

Urban Z, Riazi S, Seidl TL, Katahira J, Smoot LB, Chitayat D, Boyd CD, Hinek A.
Pacific Biomedical Research Center, University of Hawaii, Honolulu, HI, USA.
Am J Hum Genet 2002 May 6;71(1)

エラスチン欠乏患者の循環器病を防止することにつながる発病メカニズムを解明するために、正常な対照群5人、孤発性大動脈弁上狭窄の患者4人、ウィリアムズ症候群の患者5人から取り出して培養した大動脈平滑筋細胞(aortic smooth-muscle cells (SMCs))と皮膚の腺維芽細胞に関して弾性起源(elastogenesis)と増殖率(proliferation rate)を比較した。孤発性大動脈弁上狭窄とウィリアムズ症候群の全ての患者で遺伝子の変異がみられた。孤発性大動脈弁上狭窄の患者から見つかった3種類の変異はすべて片側のミスセンス(null alleles)変異であった。RNAブロットハイブリダイゼーション、免疫染色法(immunostaining)、代謝ラベリング(metabolic labeling)試験の結果、孤発性大動脈弁上狭窄とウィリアムズ症候群の細胞はエラスチンメッセンジャーRNAレベルが減少していること、その結果として蓄積された不溶性エラスチン量が少ないことが判明した。孤発性大動脈弁上狭窄の細胞には、正常細胞のおよそ50%のエラスチンが存在したが、、ウィリアムズ症候群の細胞には15%しか蓄積されていない。エラスチン遺伝子の発現に関して観察されたこの相違は、ウィリアムズ症候群のエラスチンメッセンジャーRNAと孤発性大動脈弁上狭窄のそれの安定性に違いがあることが原因ではない。しかし、遺伝子間の相互作用がウィリアムズ症候群に見られる複雑な発現型に寄与していることは示している。孤発性大動脈弁上狭窄とウィリアムズ症候群の細胞のエラスチン蓄積量が少ないことと同時に、増殖率の増加が見られる。これは外因的に不溶性エラスチン量を増やすことと等価である。我々は不溶性エラスチンが細胞増殖の重要な調節因子であると結論付けた。このように、孤発性大動脈弁上狭窄やウィリアムズ症候群の患者の動脈血管壁にある不溶性エラスチン蓄積量の減少が動脈平滑筋細胞増殖を増加させることにつながっている。これが起因となって、大きな動脈の中膜が何層にも渡って肥厚し、その結果として部分的動脈狭窄につながる内膜形成不全障害の引き起こしている。

(2002年5月)



目次に戻る