Williams syndromeの大動脈狭窄症に対する形成手術の麻酔経験
尾崎 容子、溝部 俊樹、上野 博司、田中 義文(京都府立医科大学 麻酔学教室)
山岸 正明(京都府こども病院 小児心臓血管外科)
第7回日本心臓血管麻酔学会学術大会・総会(2002年9月21日、22日)
<背景>
Williams syndromeは7番染色体の微小欠失に起因するエラスチン遺伝子の欠如により多彩な病状を伴う。エラスチンは心血管系の組織にて重要な役割をはたす蛋白質であり、大動脈弁上狭窄を伴うことが多い。今回、上行、下行大動脈及び頚部動脈にかけてびまん性狭窄を呈したWilliams syndromeに対し、1.弓部分岐部のunifocalization、2.上行から下行大動脈までのホモグラフトによる拡大、3.自己心膜による肺動脈形成、を行った。この手術では上下大静脈、右肺動脈を切断、左心房の左肺静脈流入口周囲を切開した。この時点で心に接合している血管は主及び左肺動脈だけとなったことで心を左方に翻転し後縦隔の視野を展開した。これにより心臓の背側に位置する下行大動脈への視野が大きく展開され、拡大形成が可能となった。結果、弁上部の拡大のみならず全ての狭窄部を拡大し、なおかつホモグラフトを用いることで小児の成長に伴って形成部の成長が期待できる術式となった。今回我々はこの世界的にも類を見ない新術式の麻酔管理を経験したので報告する。
<症例>
10ヶ月男児8kg。出生時より心雑音聴取、心エコーにてPS, ASD, small muscular VSDと診断され経過観察されていた。生後8ヶ月時にWilliams syndromeの診断、心臓カテーテル検査にて、弁上狭窄、上行、下行大動脈のびまん性狭窄、弓部頚動脈の分岐異常、肺動脈分岐部狭窄を認め手術適応となった。前投薬は入室45分前に抱水クロラール8ml内服、30分前にスコポラミン0.1mg、ペチジン10mgを筋注投与した。麻酔導入はミダゾラム0.6mg、パンクロニウム2mgによる急速導入で行い麻酔維持はAir-O2-sevofluraneの吸入麻酔とパンクロニウム、フェンタニルの間欠的投与で行った。大動脈遮断1:42、人工心肺5:02、手術10:16、麻酔12:42を要した。長時間人工心肺症例であり人工心肺中は十分な麻酔深度が要求され、人工心肺離脱後は血管拡張とカテコラミンによる心機能の補助が必要であった。
<考察>
Williams syndromeではその多彩な病状から、術前に心臓の検査のみならず、内科及び神経科全般、腎機能、甲状腺機能、カルシウム定量など全身検索が必要となる。また、術中は長時間にわたる大動脈遮断から人工心肺離脱が円滑に進むよう配慮が必要となる。
<結論>
まれで多彩な病状を持つWilliams syndromeの新術式による大動脈狭窄症の手術の麻酔を経験した。
(http://www.jscva.org/jscva2002/abstract/2002/10053.html より)
(2002年8月)
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