腹膜透析カテーテル出口部を肩甲骨下部に作成した発達遅滞患者の一例
黒川 麻里1)、西山 慶1)、井上 貴之2)、江角 元史郎2)、木下 義晶2)、田口 智章2)、大賀 正一1)
九州大学大学院 医学研究院 成長発達医学分野1) 小児外科部分野2)
日本小児PD・HD研究会雑誌 29:15-17,2017
略
【症例】
症例は15歳女子。在胎40週、3288gで出生し、特異顔貌、発達遅滞を認めた。3歳時にFISH法でdel(7)(q11.23)との分析からWilliams症候群の診断に至った。
14歳時に急性腎不全と肺胞出血で顕微鏡的多発血管炎を発症した。ステロイドパルス、血漿交換、リツキサン投与を行い、肺胞出血はコントロールできたが、腎機能は回復しなかった。内シャントを作成し維持血液透析を開始した。翌年より内シャント穿刺部の痒みのため不穏状態となり血液透析継続が困難となった。ステロイド精神病疑いでPSLを早期に減量したところ肺胞出血が再発した。再度ステロイドパルスと経口ステロイドによる寛解導入を行い、肺胞出血は改善したが、ステロイドミオパチーによる筋力低下と廃用性萎縮のため寝たきりとなった。その後、ステロイド糖尿病を合併しインスリンを開始したが、仙骨部に褥瘡を形成した。血液透析から腹膜透析への変更を母親が強く希望し、腹膜透析導入目的に当院へ転院した。
入院時、全身状態は保たれていた。身長155.0cm、体重31.0kg、体温37.8℃、脈拍108/min、血圧130/82mmHgであった。満月様顔貌あり、心音、呼吸音に異常は認めなかった。四肢のるいそうが著明であり、足背の圧痕性浮腫と、仙骨部の褥瘡を認めた。簡単な質問は理解し、簡単な意思表示は可能であった。(大島分類10~1)
BUN56mg/dL、Cr2.49mg/dLであり、電解質異常は認めなかった。補体の低下は認めず、MPO-ANCAは1.0U/mL未満であった。
血液透析の継続が困難となった状況を鑑み、本人が触れない位置に出口部を設ける方針とし、肩甲骨下部への出口部作成を計画した。患児が右側臥位を好む傾向があったため、左側からの挿入を計画した。カテーテルはJB1-130を腹腔側に、JB5を背側に置くような走行ルートで作成し、2つのカテーテルを側腹部でチタニウムエクステンダを用いて連結した。出口部およびトンネル部に肩甲骨が重ならないようデザインした。
術後2週間で腹膜透析を開始した。腹膜透析はCCPD:1回注液量1200L、治療時間9時間、7サイクル、最終注液700mL、日中に1回のCAPD(700mL)を行った。皮下トンネルが長いためにカテーテルの閉塞が危惧されたが、注廃液は良好であり、除水・溶質除去とも良好であった。しかしチタニウムエクステンダ直上の術創は閉鎖せず、感染徴候は認めなかったため消毒とドレッシングで対処した。腹膜透析開始約1か月後に腹膜炎に罹患し、翌日に臍部から透析液の漏出を認めた。臍部はカテーテル留置時に腹腔鏡を挿入した箇所であり、皮膚の脆弱性から、腹膜に瘻孔を形成したものと考えられた。臍部の瘻孔に対しては再開腹と閉鎖術を行い、カテーテル接合部の創傷離開も同時に壊死組織の除去と再縫合を行った。複数個所の創傷離開の要因に使用薬剤の治癒遅延が関与していると考え、アザチオプリンを中止、プレドニンの漸減を行った。
その後もチタニウムエクステンダ直上の離開部は治癒せず、カテーテル挿入の2か月後に同部位の膿瘍を形成し、次いで敗血症ショックを発症した。膿瘍および血液より同一の緑膿菌を検出し、カテーテル関連感染症から敗血症を起こしたと判断し、延長カテーテルを抜去した。
略
(2019年4月)
目次に戻る