ウィリアムズ症候群における頭蓋及び歯牙表現型の変異性
Variability of the cranial and dental phenotype in Williams syndrome.
Axelsson S.
Institute of Clinical Odontology, Faculty of Dentistry, University of Oslo,Norway.
Swed Dent J Suppl. 2005;(170):3-67.
はじめに:
ウィリアムズ症候群は希少先天的障害で循環器・結合組織や中央神経系に影響があり、中程度から軽度の精神遅滞・特異な認知プロフィール・独特な人格特徴・特徴的な顔貌や循環器の疾患を呈する。臨床的にウィリアムズ症候群の診断を受けた患者の大多数は7番染色体(7q1.23)上の連続する遺伝子が欠失している。身体的な特徴にはまるく突出した頬・幅広い口・長い人中・つぶれた鼻梁を有する小さい鼻・がっしりした眼窩隆起眉内側の紅斑(medial eyebrow flare)・歯牙異常・嗄声・成長遅延などを含む独特な顔や循環器異常(もっとも共通している疾患は大動脈弁上狭窄や肺動脈狭窄)などが含まれる。認知プロフィールも特徴的で、聴覚記憶や言語や容貌認識に優れる一方で視空間や数量や問題解決課題を苦手とする。神経学的な研究によると、ウィリアムズ症候群の成人では脳の容積が顕著に減少しているが、辺縁系や前頭葉・小脳の発達は比較的正常である。
目的:
限定されたウィリアムズ症候群のノルウェー人患者グループに対して、脳髄頭蓋部・頭蓋顔面部・歯牙について分析を行った。この目的を達成するために、X線撮影で計測されたオスロ大学頭蓋顔面部側方成長記録に記載されたデータの中から、6歳から21歳の男女ノルウェー人の頭蓋底(cranial base)やトルコ按を含む正規化された横方頭蓋計測標準値を準備した。
材料と手法:
本研究は、X線側方頭蓋計測と正面断層写真(orthopantomograms)および歯型を使い、4歳から44歳までの62人のウィリアムズ症候群患者を調査した。側方頭蓋計測と正面断層写真および歯型は文献に述べられている標準方法で分析された。
結果:
頭蓋計測分析の結果、ウィリアムズ症候群患者の脳髄頭蓋部の大きさと形状は正常群とは異なっていた。頭頂骨の上部面が平坦傾向になっていること、後頭骨の後部のふくらみが大きいことが発見された。この知見はウィリアムズ症候群に関して発表されている神経解剖学的あるいは神経病理学的研究結果と一致し、脳容積は小さいが一部は正常に発達し、他の部分は減少しているという脳解剖学的異常ともマッチする。ウィリアムズ症候群では頭蓋底の前縁と後縁は短いが、頭蓋底傾斜角度は正常である。頭頂骨、特に前頭骨や後頭骨の厚みは対照群と比較してウィリアムズ症候群では厚くなっている。
トルコ按のサイズは対照群と比較してウィリアムズ症候群では幾分か小さいが有意ではない。トルコ按の形状に関する異常タイプを提示する。出生前の脳下垂体とトルコ按内部の奇形と出生後のトルコ按の形態との関連性について議論を行った。
頭蓋底に加えて2箇所がウィリアムズ症候群特有の顔貌に寄与していることが特定された。上顎骨の前方傾斜と下顎骨の形状である。高い下顎平面角度と極度に不十分な顎の骨の相乗効果により、早くから臨床的に指摘されてきたウィリアムズ症候群における下顎の歯の後方圧迫が説明できる。子ども時代に頻繁に行われる口呼吸や小さな頭蓋底は、特徴的な頭蓋顔面形状パターンに起因している可能性がある。
10歳を越えたウィリアムズ症候群の子どもの40.5%には1本以上の永久歯に形成不全が見られ、11.9%は形成不全が6本以上におよぶ。上顎骨の永久歯欠失が最も多く、それには第2小臼歯、第一小臼歯、側門歯が含まれる。下顎骨においては第2小臼歯、第一小臼歯、中央門歯の欠失が最も多い。永久歯の歯冠は近遠心方向も唇舌心方向も小さい。永久歯の歯冠の形状は正常な形とはいくつかの点で特徴的な差が見られる。とくに両顎とも門歯は漸減したマイナスドライバーのような形状をしている。永久臼歯に対するタウロドンティズム(taurodontism:雄牛歯)に関する評価を行った。しかし、標準的な定義に合致していないので、全歯長が短いタウロドンティズムに位置付けられる。
結論:
本研究はこれまで報告されたことがないトルコ按を含むウィリアムズ症候群の患者の脳髄頭蓋部における形態異常を示した。頭蓋顔面部においてはウィリアムズ症候群の特徴的な顔貌に寄与している特徴を同定した。永久歯の歯牙異常については、欠失・矮小・形状異常などがウィリアムズ症候群に共通している。
(2005年3月)
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