Williams症候群患者に見られる橈尺骨癒合症
徳富 智明(1),奥原 宏治(1),高橋 伸浩(2),飯塚 進(1,2),小畑 慶子(3),外木 秀文(1,2,4)
(1) 社会医療法人母恋 天使病院 周産期母子センター 小児科
(2) 同 NICU科
(3) 北海道大学大学院保健科学研究院 保健科学部門 病態解析学分野
(4) 北海道大学大学院 小児科
小児科臨床 Vol.67、No.8、2014、1395-1399ページ
【要旨】
Williams症候群は、妖精様顔貌、精神遅滞、心血管異常が特徴の先天奇形症候群で、しばしば関節拘縮や側彎症などの筋骨格系の異常も伴い、橈尺骨癒合症もその一つである。我々がフォローしているWilliams症候群16例のうち、4例に橈尺骨癒合症が認められた。先天奇形症候群を診断する際、その身体的・精神的な特徴に応じた対応が必要であり、Williams症候群の場合には橈尺骨癒合症を含む整形外科的アプローチが重要と考えられた。
略
【考察】
Williams症候群は金骨格系の異常を合併し、乳児期には90%の患者が関節過伸展を有する。また、成長に伴い下肢優位の関節拘縮を小児期には50%、成人期には90%の患者に認められる。脊柱彎曲症も多く、前彎は40%、側彎は20%、後彎は20%である。
橈尺骨癒合症は、報告により差があるが10〜26%に認められる。我々が経験した患者も25%(4例/16例)であり、合併症としての人種差は少ないと考えられる。また、ほかの金骨格系の異常との合併は不明で、軽度の側彎症を患者1と患者2に認めているものの、橈尺骨癒合症を有さない患者との差異は今のところ認められない。
橈尺骨癒合症の発生機序は不明であるが、Bzduchらの仮説によると、少なくともWilliams症候群においては、ELN遺伝子を含む染色体7q11.23領域の微細欠失により広汎性動脈障害を有し、後骨間動脈の位置異常や通過障害から、9〜17mm胎芽(胎生7週)のころに橈尺骨間の軟骨性分離障害が起こり、橈尺骨癒合症が生じると考えられている。Williams症候群のほかに、Klinefelter症候群やXXXXY、XXXY、XXYYなどのX染色体過剰症、Holt-Oram症候群、Klippel-Feil症候群、Pfeiffer症候群、尖頭合指症にも橈尺骨癒合症が認められているが、どのような機序で橈尺骨間の軟骨性分離障害が生じるかは不明である。橈尺骨癒合症による前腕回外制限は、顔を洗えなくなったり、患者2のように物を持ち上げられなくなったり、日常生活に影響を及ぼすものの、肩関節である程度代償されるため一般には気づかれにくい。しかし、お盆をもつ動作やスクリュードライバーを回す動作、箸や茶碗を持つ日本特有の動作(ナイフやフォークでは支障なし)は困難なため、職業訓練や文化的習慣に少なからず影響を及ぼすと考えられる。
また、Williams症候群の患者は、音楽の才能がある場合が多く、患者3のように楽器演奏を趣味としていることがしばしばある。ピアノ演奏は回外運動が少ないため影響はないが、ギターやドラムなどは将来的に支障を来す可能性があるため、橈尺骨癒合症を念頭に置いた楽器選択も必要かもしれない。
日常生活動作に障害を来す場合には、橈尺骨癒合症は手術の適応となるが、癒合関節を稼動化する関節形成術は患者4のような再癒合のリスクがあり、前腕の肢位を変える回旋骨切り術は循環・神経障害の合併があるため、患者3のようにピアノ演奏を趣味にしている場合には影響が大きい。
橈尺骨癒合症は、Williams症候群において、決して稀ではない合併症であるが、親が医師よりも先に児の回外制限を発見することは難しいといわれている。したがって、Williams症候群と診断した場合には、前腕回外障害の影響について、あらかじめ両親に説明をしておく必要があるとともに、橈尺骨癒合症を意識して、整形外科的アプローチも加えた定期的なフォローを実施することが重要と考えられた。
(2015年8月)
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