ウィリアムズ症候群
(1999年11月)
病因: この疾患の患者は孤発状況であり顕著な遺伝家系は見られない。しかし、家族間 で遺伝した事例がいくつか報告されている。研究の結果、7番染色体上にあるエラスチン 遺伝子の欠失がこの疾患形成の病因であると考えられている。
遺伝様式: 常染色体優性遺伝。
口腔の病態: 患者の典型的な症状は、口唇が厚く、口唇交連間隔(口の幅)が広く、いつも口 をあけている。口腔内は、頬粘膜が厚いことが多く、時々上下の口唇小帯の突出も見られる。 高口蓋が多く、矮小歯、歯牙形成不全、エナメル質形成不全が共通的に見られる。 歯根も小さく薄い。上顎の第二大臼歯が脱落したり、下顎の第一大臼歯(永久歯)が歯形態 異常で生えてくる事も多い。
その他の身体的精神的病態: 出産前後の両期間に軽度〜中程度の成長不全が見られることが 多い。軽度の小頭症を伴うと共に、同症候群の患者は次に挙げるような特徴的な顔貌をして いる。眉間の発赤、短い眼瞼裂、眼内眥贅皮、低い鼻、鼻橋の陥没、扁平な顔中央部、厚い 唇といつもあいている口である。目の色の薄い人には機能障害として、星状あるいはレース 状の模様が見られる。彼らはひとなつっこく、低くしわがれた声でしゃべることが多い。 時には、自閉的傾向が見られることもある。
発達のいろいろな段階で様々な症状が見られる。乳児期に見られる初期症状としては、 体重増加不全、摂食障害、発作性腹痛がある。先天的異常もあり、もっとも多い症状は 先天的心臓疾患である。児童期には、発達遅延、学習障害、注意欠陥障害がもっとも よく見られる。視覚、聴覚、循環器、筋・骨格、口腔に多くの問題がある。成人では、 同症候群の人は、若白髪や腎臓の機能障害につながる高カルシウム血症が見られる。
レントゲン検査所見: 細い歯根を持った小さく低形成の歯牙。
歯質層の硬骨化変異が主と して小臼歯〜臼歯領域に見られることがある。
埋没歯(Dens invaginatus)が見られることがある。
歯科治療の考慮点: エナメル質形成不全のため、同症候群の患者は虫歯になる危険性が 高い。そのため定期的に歯科衛生士に見てもらうことと、家庭で十分に手入れをすること が求められる。行動的には同症候群の患者の機嫌を頻繁に取っておけば、管理する ことは簡単である。
診断手順: 高カルシウム血症が見られる例がある。1.25(OH)ビタミンDのレベル低下が 見られる患者もある。循環器や腎臓の異常を調べるには超音波診断が有効である。
予後: 子どもの突然死の報告があるものの、ウィリアムズ症候群の人の大部分は 成人まで生きる。