Williams症候群患者の全身麻酔下歯科治療経験
障害者歯科 第26巻第3号 2005年 437ページ
福井 瑞穂1)、榊原 雅弘1)、正田 行穂1)、穂坂 一夫1)、小笠原 正1)、笠原 浩2)
1):松本歯科大学障害者歯科学講座
2):松本歯科大学大学院健康増進口腔科学講座
緒言
1961年にWilliamsにより報告された症候群で、低身長軽度の精神遅滞、妖精様顔貌、嗄声、カクテルパーティ様性格、大動脈弁上狭窄等の心血管系の異常を有する症候群で、発生頻度に男女差は無く、1/20,000程度。現在はFISH法により90%以上に7q11.23の微細欠失が認められている。今回、検診により多数歯重症う蝕が認められたWilliams症候群女児の全身麻酔下での歯科治療を経験したので報告する。
症例
患者:I.K. 5歳5ヶ月 女児
初診時:2004年8月24日
主訴:全身麻酔下でのう蝕治療希望
既往歴:患児は、在胎40週正常分娩で出生。出生時体重は3100gであった。生後1ヶ月時に心雑音を指摘され、その後の検査で肺動脈弁狭窄が確認され、A総合病院小児科にて2ヶ月に1回定期検査を受けていた。1歳時、B大学病院へ紹介され、Williams症候群と診断された。2歳頃より風邪の時に気管支喘息症状が出現し、投薬処置を受けた。その後も気管支喘息症状が出現し、数回入退院を繰り返した。
現病歴:4歳頃にA総合病院歯科で抑制下(ネット)にて治療された。
家族歴:特記事項なし
現状:身長105cm体重14Kg(全国平均110cm、体重18.8Kg;2000年度文部科学省調査)。発達年齢3歳未満。ADLは歯磨きのみ部分介助、他は自立している。
顔貌は両眼開離、腫れぼったい目、平坦な鼻根部、口唇が厚く翻転して常に開口しており、いわゆる妖精様顔貌を呈している。明るく人なつっこく簡単な単語文・簡単な会話なら可能性あり、嗄声を伴う。その他、第5指短小、爪の形成不全が認められた。
口腔内所見:初診時(5歳5ヶ月)う蝕が12歯(C3が10歯、C2が2歯)、開咬が認められた。
経過:初診時(8月24日)に問診と口腔内診査、全身麻酔についての説明を行い、9月16日に術前検査を行った。10月15日全身麻酔下にて、歯髄処置10歯、保存処置2歯を行った。術後の合併症も無く翌日には全身的も局所的にも良好であったので退院した。
11月5日に1ヶ月予後で来院し、その後3ヶ月ごとに定期健診を軸とした歯科的健康管理中である。
考察および結語
歯科領域におけるWilliams症候群の報告は、9例みられる。本患児を含め、すべての症例において精神遅滞の程度は軽度であった。また心血管系の異常は7例中6例に認められ、1例では自然治癒していた。本患児も同様に心疾患がみられたが、自然治癒したので、予防投薬の必要は無かった。
歯科的特徴としては、咬合の異常は6症例に認められ、両顎前突2例、上顎前突1例、下顎前突1例、反対咬合2例であった。患児は開咬を呈していたが、過去の報告を含めるとWilliams症候群の咬合異常は一様ではなかった。その他、患児を含め10例中5例でエナメル質形成不全がみられた。4例においては先天欠如が認められたが、患児ではみられなかった。
歯科治療への適応は一見すると明るく人なつっこいので歯科治療に理解を示し、期待できるかと思われたが、口腔内診査も受け入れなかった。発達年齢を評価する重要性を再認識した。
(2008年6月)
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