口腔清掃に関心を示し、ブラッシングが行えるようになったWilliams症候群の1例
天野 理江1)、池田 順子1)、飯島 由美子1)、若木 誠男2)、高橋 利幸2)、小澤 正明2)3)、関田 俊介2)4)
1)鶴見大学歯学部付属病院歯科衛生士部
2) 鶴見大学歯学部付属病院障害者歯科
3) 鶴見大学歯学部第一歯科保存学教室
4) 鶴見大学歯学部歯学科麻酔学教室
障害者歯科 第30号3巻 340ページ、2009年
緒論
Williams症候群は7番目の遺伝子異常により発症する疾患で20,000に1人の頻度と考えられている。特徴は、心疾患(大動脈弁上狭窄等)の合併が多い、知的発達障害(IQ40〜85)、特有の顔貌は体系、度を越した馴れ馴れしさ、特定の物や出来事への没頭やこだわり、強い不安や気の散りやすさ、話すのは得意だが理解力は劣る、微細運動機能の遅滞、視覚・空間認識の欠如などが指摘されている。今回、患者と気の合ったDHが対応することにより、口腔清掃に関心を示し良好な経過を得た症例について報告する。
症例
患 者:34歳 男性
障 害:Williams症候群(知的発達障害、大動脈弁上狭窄)、うつ病
主 訴:右上智歯周囲炎による頬部腫脹
既往歴:クレチン病、糖尿病、肝機能障害
性 格:身の回りのことは自分で行えるが雑であり、生理整頓は介助者が必要。単語は知っているが意味は理解していない。わからなくてもわかったふりをする。
経過:
行動変容法(主にTSD法)の下、抜歯および多数歯齲蝕の処置およびPMTCによるメインテナンスとTBIを2〜3ヶ月間隔で行った。しかし日常でのブラッシングには意欲を欠いているようであったため、患者と気が合い、患者が積極的に話しかける相性の良いDHを担当とした。DHの指導によって日常生活でのブラッシングのモチベーションは向上し、その結果、PCRは94.1%から63.3%に改善した。その後、患者に音波振動歯ブラシを指導したが、効果が十分に認められず、PCRが83.0%に悪化したため患者の理解力に合わせて指導内容を以下の3項目のみとした。
@ 歯ブラシをおくまで入れる。
A 葉と歯ぐきの間に歯ブラシを当てる。
B 少しずつ歯ブラシを動かしていく。
その結果PCRは58.9%に改善した。
考察:
当初、会話が成立し指導への理解を示しているように思えたため、健常者への対応と同様のTBIを行ってしまい、思ったように成果が上がらなかった。これは単語はよく知っていいて、お喋りであり、話を相手に合わせる単語の意味の理解力は無いなどのWilliams症候群の特長によるものと考えられる。しかし、気に入った相手とはよく話し、気に入られるようにしようとするなどの特徴もあった。そのため、本学ではDHがローテーション性であったが、これを調整して固定とした結果、モチベーションを高める事が出来てPCRに改善が見られた。しかし、手用ブラシでは刷掃中に疲れてしまい集中力の持続が難しかった。会話の中から、患者は機械(車やカメラ)に興味があることがわかった。そこで音波振動歯ブラシの使用を勧めた。音波振動歯ブラシ指導後一時的にPCRの悪化が見られた。本人は音波振動歯ブラシの振動によって磨けた気になっていたとのことであった。指導内容を複雑にすると記憶することが困難であることから、患者の理解力に合わせ3項目のみの指導とすることにした。その結果、患者自身の意識の向上、協力を得ることが出来、PCRの改善が見られた。今後、グループホームの指導員と密に連絡を取って、患者のモチベーションを持続できるように指導したい。
結論:
Williams症候群の患者に対し、その性格を利用し、自発的にブラッシングを継続してもらうように指導でき、良い結果が得られた。
(2010年1月)
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