咬合誘導を施行したWilliams症候群の一例
長嶺 菜穂、橋本 岳夫、安田 順一、玄 景華
朝日大学歯学部口腔病態医療学口座障害者歯科学分野
障害者歯科 29(3)、2008年、298ページ
緒言
Williams症候群は成長障害、精神遅滞、妖精様顔貌、大動脈弁上狭窄を始めとする心血管奇形の異常を伴う先天奇形症候群である。発生頻度は2万人に1人と稀であることが知られている。身体的特徴についての報告はみられるが、歯科的管理に関する報告は極めて少ない。今回、われわれは本症候群患者、7歳女児の不正咬合に対して、舌側弧線装置を用いた咬合誘導を経験し、歯科的管理の経過について報告する。
症例
患者:6歳8ヵ月女児
初診:平成19年7月13日
主訴:前歯部反対咬合
既往歴:患者は正常分娩で出生。その後、抹消性肺動脈弁上狭窄症や容貌より、Williams症候群と診断された。
全身症状;新調10.1cm体重16.0Kgと発育は不良。顔貌は両眼開離、腫れぼったい目、平坦な鼻根部、長い人中が認められ、口唇が厚く翻転して常に開口しており、いわゆる妖精様顔貌を呈していた。また、斜視と軽度の精神発達遅滞が認められた。
口腔内初診:初診時
6EDCB1 1BCDE6
6EDCB1 12CDE6
左側上下顎中切歯が反対咬合であり、右側上顎中切歯は先端のみ萌出していた。X線診査により、多数の先天欠如歯が認められた。
経過
初診時、パノラマX線写真撮影と口腔内診査は施行できたが、患児に対する口腔衛生指導は困難であった。経過観察中に左側上下中切歯が反対咬合、右側上下中切歯が切端咬合を呈していたため、両側上顎第一大臼歯を固定源とし、両側上顎中切歯に補助弾線を用いた舌側弧線装置にて咬合誘導を行うこととした。接着後は補助弾線の調整を繰り返すと同時に口腔衛生指導を強化した。装着後約6ヵ月で被蓋関係は改善した。現在も前歯部被蓋ならびに臼歯部咬合関係とも安定しており、経過観察中である。
考察
Williams症候群では、上顎前出、下顎前歯唇側傾斜などの不正咬合や先天欠如歯等が特徴である。本症例では軽度の精神発達遅滞を認めるも、根気強い行動調整法の導入と早期からの咬合誘導により、良好な咬合関係が得られた。今後さらに定期管理を行い、先天欠如歯を補う咬合構築を検討する予定である。
(2010年3月)
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