Williams症候群患者に対する静脈麻酔を併用した歯科治療経験
ウィリアムズ症候群の発生頻度に関する記述(20〜35万人に1人)は、古い資料(1987年)を参考にしているため最近の研究結果(7500人に1人)とは異なっている。
(2010年10月)
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中川 誠仁125)、宮石 篤子1)、笠井 昌樹子1)、酒匂 潤2)、杉岡 伸悟3)、森田 章介2)、小谷 順一郎3)、堤 香奈子4)、森崎 市治郎4)、菅原 正之5)、橋爪 年世5)
1) 財団法人 尼崎口腔衛生センター
2) 大阪歯科大学口腔外科学第1講座
3) 大阪歯科大学歯科麻酔学講座
4) 大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部
5) 尼崎歯科医師会
障害者歯科 第31巻第3号 2010年 435ページ
緒言:
Williams症候群は小妖精顔貌(elfin face)、精神発達や身体発育の遅延、心血管異常および高カルシウム血症の4徴候を合併する症候群で、20〜35万人に1人の頻度といわれている。今回、本症候群患者に静脈麻酔を併用した歯科治療を経験したので報告する。
症例:
患者:33歳、男性、身長155センチ、体重46キロ。
治療経過:平成21年12月に当センターを紹介受診し、歯科治療が必要と診断したが恐怖心が強く、静脈麻酔を併用した歯科治療が適応であると診断し、平成22年2および6月にプロフォールによる静脈麻酔下で歯科治療を施行した。静脈麻酔は、右側前腕部より静脈路を確保し、ミタゾラム3mgで導入し、プロポフォールをTCIポンプにて3μg/mlで維持した。2月には下顎6前歯の保存修復処置および全顎的な歯周治療を、6月には左上5番の抜歯を施行した。なお平成9年に大動脈弁置換術を診けていたため、両日とも感染性心内膜炎の予防目的にアモキシシリン水和物750mg/日を治療前日から服用させ、治療直前にアスポキシシリン1gを静脈内投与した。経過を通じて危篤な合併症は認めなかった。
考察:
Williams症候群の病因は、エラスチン遺伝子(ELN)とLIM-kinase1遺伝子(LIMK1)の欠失であると報告されている。大部分は単発例であるが、家族性にみられることもある。全身的特徴は成長障害、精神運動発達障害、心血管異常および高カルシウム血症があげられ、口腔内症状としてエナメル質減形成、高口蓋、歯数不足などが報告されている。本患児は低身長と低体重、大動脈弁閉鎖不全および知的障害を認めた。また、両眼開離や平坦な鼻根部さらに口唇が厚く翻転しており、いわゆる妖精様顔貌(elfin face)を呈し、さらにエナメル質減形成や高口蓋がみられた。しかし、高カルシウム血症は認められなかった。同症候群患者の麻酔管理に関する報告は少なく、Hekimogluらは心疾患や顎顔面奇形に基づく気道確保困難に注意するべきであるとしている。さらに症例によっては甲状腺機能異常を認める場合もあり、薬物による行動調整を困難にしかねない。本症例では静脈麻酔法を選択することで自発呼吸を維持し、また心内膜炎予防にも配慮することで良好な結果を得ており、今後も慎重な対応をしていきたい。
結語:
今回われわれは、比較的まれなWilliams症候群の1症例に遭遇した。同症候群患者に対する静脈麻酔を併用した歯科治療は、患者および術者双方にとって有用であると思われた。なおこの症例報告について患者母より同意を取得している。
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