矯正治療と接触・嚥下指導を施行しているWilliams症候群の一例
参考情報【over jet:上歯突出】、【over bite:過蓋咬合】
(2014年7月)
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大多和 由美1)、石田 瞭2)、辻野 啓一郎3)、久保 周平3)、宮崎 晴代4)、片田 英憲4)
1)東京歯科大学口腔健康臨床科学講座障害者歯科学分野
2)東京歯科大学摂食・嚥下リハビリテーション・地域歯科診療支援科
3)東京歯科大学口腔健康臨床科学講座小児歯科分野
4)東京歯科大学口腔健康臨床科学講座矯正歯科分野
障害者歯科 第32巻第3号 2011 287ページ
諸言
Williams症候群は成長障害、精神遅滞、妖精用顔貌、心血管系の異常を伴う、発生頻度が2万人に1人と稀な症候群である。歯列・咬合の異常が見られることが多く、平成22年度から歯科矯正治療の保険適用となった。今回、Williams症候群の小児に対し矯正治療と摂食嚥下指導を含めた口腔管理を行なう機会を得たので報告する。なお、今回の報告に当たり保護者の同意を得ている。
症例
患者:
主訴:
現病歴:
4歳から近医で口腔管理を行っていたが、永久前歯萌出後に上顎の正中離開が気になりたしたため、当院に紹介されて来院した。また、下顎右乳側切歯は先天的欠如していたとのことである。
既往歴:
患児は在胎期間40週の吸引分娩で出生。出生時に心室中隔欠損を認めたが、自然閉鎖した。その後、小児神経科でWilliams症候群の診断を受け、知的障害や視覚認知機能についてフォローアップされている。
全身所見:
身長129cm、体重35.2kg(Kaup指数27.3)と発育は良好である。顔貌は眼開狭小、腫れぼったい目、平坦な鼻根部、長い人中が認められた。しかし、典型的な妖精様顔貌にみられる厚く翻転した口唇はみられず、口唇は比較的薄く安静時には口唇閉鎖していた。軽度の精神遅滞を認める。
口腔所見:
Hellmanの歯齢はVAで正中離開および上唇小帯の付着位置異常を認めた。齲蝕はなく、口腔内清掃状態も良好であった。Over jet 4 mm、over bite 1mm、Angle分類I級であった。エックス線写真から上顎左側側切歯、下顎右側側切歯、下顎左右側第二小臼歯の先天欠如を認めた。横貌頭部エックス線規格写真では、SNA79、SNB76、ANB3と骨格的な異常は認められなかった。以上から歯の先天性欠如を伴う正中離開と診断した。
口唇閉鎖は良好であり、舌運動、顎運動とも良好であった。むせはないが、肉類、玄米などの固めの食材や、麺類を食べると時々嘔吐するとのことであった。丸呑み込みが時折認められ、咀嚼リズムに乱れがあった。これらの症状から軽度咀嚼機能不全と診断した。
処置および経過:主訴である上顎正中離開については、可撤式床型矯正装置を用いて右側中切歯の近心移動を行い右側側切歯の萌出余地を確保すること、上唇小帯切除術を行うこととした。患児は、歯科治療器具、レントゲン写真撮影の受容は良好であった。印象採得、口腔内写真撮影のトレーニング後に矯正治療に入り、可撤式床型矯正装置を装着した。装置の受容は良好であり、現在も動的処置中である。
摂食・嚥下指導は、生活レベルの咀嚼に対する言葉かけ、食事中の水分コントロール、適度な運動を指示した。現在、食事時の経過観察中である。
考察
Williams症候群の口腔内所見は、矮小歯、歯の先天性欠如、エナメル質低形成、高口蓋などがある。発現する不正咬合としては、開咬、上下顎前突出、空隙歯列などが報告されている。本症例は4本の歯の先天性欠如を伴い、現状では空隙歯列である。今後発育を観察しながら前歯部の先天的欠如部位は空隙を閉鎖し、臼歯部は乳歯を保存する予定である。また、摂食障害の評価と指導により、保護者は食事時の具体的な注意点を得られた。本症例のような種々の課題を有する場合には、混合歯列期からの咬合管理および摂食・嚥下指導などの総合的な工区管理が重要である。
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