Williams症候群の歯科治療経験
名取 文奈1)、楠本 康香2)、林 直毅1)、木下 陽介1)、渡邊 麻里子1)、山脇 弘稔2)、塩田 千里1)、竹内 陽平2)、篠塚 修2)、深山 治久3)
1) 東京医科歯科大学歯学部附属病院スペシャルケア外来
2) 東京医科歯科大学院医歯学総合研究科障害者歯科学部分野
3) 東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科麻酔・生体管理学分野
Case reports of dental treatment for patients with Williams syndrome
日本障害者歯科学会雑誌 第36巻 第3号 2015 409ページ
諸言
Williams症候群特徴的な顔貌(妖精様顔貌)、精神遅滞、大動脈弁上狭窄などの心疾患、成長障害、人なつっこい性格を主徴とする7,500〜20,000人に1人の稀な症候群である。Williams症候群の症例を2例、経験したので歯科治療の経過について報告する。発表にあたり本人および保護者の承諾を得ている。
症例1
患者:初診時年齢16歳2ヶ月、女性
現症:身長145cm、体重42kg
主訴:う蝕治療
家族歴:特記事項なし
既往症:Williams症候群、僧房弁逸脱兼閉鎖不全、精神遅滞
幼少時より発達障害を認め、11歳のときにWilliams症候群と診断
現病歴:2010年10月当院矯正科にて矯正治療を開始し、2014年3月にう蝕が見つかり当科に治療依頼となった。
口腔内所見:全顎的にプラーク付着、歯肉発赤、腫脹を認めた。う蝕歯を多数認めた。
エックス線写真所見:う蝕様透過像を認めた。
経過:主治医に対診をとり、感染性心内膜炎の予防としてアモキシレン1.5gを観血的処置1時間前に服用してから処置を行った。矯正治療で通院はしているものの、スケーリングやう蝕処置の経験は乏しく、抵抗を示した。TSD法、う蝕処置では5倍速コントラ、ラバーダム、局所麻酔薬を使用し、音や不快感への対策をとった。その結果、全顎的な歯周治療と9歯のCR充填を完了することができた。以後、定期的に来院し、ブラッシング指導を中心とした口腔ケアを行っている。
症例2
患者:初診時年齢24歳1ヶ月、女性
現症:身長147cm、体重77kg
主訴:う蝕治療
家族歴:特記事項なし
既往症:Williams症候群、肺動脈弁上狭窄、精神遅滞、高血圧症
現病歴:2014年5月に歯痛にて近医受診したが体動があり治療できず、2014年6月に当科へ紹介となった。
口腔内所見:全顎的にプラーク付着、歯肉発赤、腫脹を認めた。右下第1大臼歯に歯髄腔に達するう蝕様透過像を認めた。
経過:歯科治療経験がほぼなく、歯科への恐怖心が強いと考えられた。診療室やユニットに慣れた様子になっても血圧が平常時よりも高値となった。笑気吸入鎮静法を試みたが、処置開始後血圧上昇が認められたため中断。改めて前投薬エチゾラム1r服用後に笑気吸入鎮静法を試みたが血圧は変動し中断。静脈内鎮静法下にて右下第一大臼歯の感染根管治療を完了した。Williams症候群の特徴である聴覚過敏も原因のひとつと考え耳栓をしての処置を試みた。笑気吸入鎮静法も併用した。術者との会話は可能だが周囲の機械音は遮断された状態であった。血圧は普段と同程度に落ち着き、安定して処置を終えることができた。笑気吸入鎮静法と耳栓を使用する方法を用いて歯冠捕綴を終了することができた。以降、定期的に来院し、ブラッシング指導を中心とした口腔ケアを行っている。
・・・以下略・・・
(2017年4月)
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