視覚発達研究の最前線
下記は京都大学の講演会を紹介するホームページ(下記参照)に掲載されていた講演要旨です。(http://www.psy.bun.kyoto-u.ac.jp/COE21/record/53thTalk.htm)
資料番号3−7−03に今回の講演者の論文があります。なお、「講演要旨」の部分は翻訳です
(2005年9月)
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京都大学心理学連合
心の働きの総合的研究教育拠点
1. Professors Oliver Braddick & Janette Atkinson 講演会:
視覚発達研究の最前線 応用編
日時 9月15日(木) 10:30-12:00
場所 文学部新第7講義室(未確定)
演題
Visual processing in developmental disorders: perinatal brain damage, Williams syndrome, and refractive screening.
(発達障碍と視覚的情報処理:周産期の脳損傷、ウィリアムズ症候群、および屈折異常診断)
概要
両教授は視覚メカニズムの解明という基礎科学的な側面だけではなく、視覚の障碍と脳科学的考察をつなぐ応用的研究でも高名である。今回は、出産前後の原因による脳損傷やウィリアムス症候群が視知覚に与える影響を脳内メカニズムとあわせて考察した研究や、眼の屈折異常に関して英国内で乳幼児に対して行った大規模なスクリーニングテストの実例などをご紹介いただく。両教授の研究は基礎研究が臨床応用に果たす役割、そして臨床例が基礎科学にもたらす貴重な知見、などの意味で基礎と応用がうまくバランスされた希有な例であり、視覚科学に限らず今後の心理学全般の研究の方向性についての示唆を与えてくれるものとなるだろう。
講演要旨
視覚機能は乳幼児期の早い段階に発達すること、そして脳の大きな部分を占めていることから、視覚機能はヒトの脳の発達を覗き見られるユニークな「窓」を提供している。我々は、方向依存の誘発電位(orientation-specific evoked potentials)や選択的注意の制御(control of selective attention)を含めて生後一ヶ月の乳児の視覚野が持つ機能を測定して、予定通りの出産や早産を含めて出生時に脳に障害をうけるリスクのある子供たちの研究を行った。このような早期に皮質の計測を行うことで、成長した後の神経的状態を確実に予測できることが判明した。3年から5年後に、こどもの視覚注意や視空間処理に対する前頭葉のコントロールを調べる検査は、通常行われるような神経学的検査や心理学的検査では明らかにならないようなかすかな障害を示す敏感な指標を提供してくれる。我々はウィリアムズ症候群とよばれる空間認知に独特の障害を持ち、言語には比較的優れている病気の同齢集団の研究を行った。全体的な形状と動きの閾値や視覚/運動の協応に関する検査を行った結果、ウィリアムズ症候群のこどもや成人は腹側皮質経路に比べて背側経路の機能に障害があることが判明した。他の検査によれば、計画や実行をつかさどる前頭葉・頭頂葉機構にも障害があることがわかっている。しかし、動きの干渉に対する閾値(motion coherence thresholds)に関する検査結果が示す背側経路の脆弱性(dorsal stream vulnerability)はウィリアムズ症候群に特有の障害ではなく、自閉症・脆弱X染色体症候群・失読症・半身不随・著しい早産による周産期の脳損傷など神経発達疾患に広く認められる。さらに我々は、全乳幼児の屈折異常のスクリーニング検査に適用できる、写真とビデオの屈折を用いた新型で安全で非侵襲性性の小児科検査器具を開発した。これを用いて、将来的に斜視や弱視になどのよくみられる視覚障害につながる前駆的な屈折異常を見出した。このような活動を通じて、8ヶ月から9ヶ月の乳幼児9000人を検査した結果、4歳時点で弱視になるが、目がねをかけるなどの屈折矯正を行うことで十分に予防可能な強度の遠視を発見した。この「遠視」乳幼児グループは、就学前あるいは入学後における視覚/運動や視覚/認知や注意に関する検査で軽度の範囲ではあるが顕著な障害が認められている。本講演では視覚発達と脳機能の発達の両者の双方向の関連を検討する。
2. Professors Oliver Braddick & Janette Atkinson 講演会:
視覚発達研究の最前線 基礎編
日時 9月15日(木) 17:00-18:30
場所 学術情報メディアセンター201教室
演題
Local and global processing of form and motion: development and brain mechanisms.
(形と動きについての局所的・大域的情報処理:発達過程と脳内機構)
概要
局所的な線分の傾きや動きの方向から大域的な形の知覚を得るための脳内の視覚情報処理様式について、最近の成果をもとにお話しいただく。乳幼児における心理実験および脳電位測定実験、また成人における心理および脳機能画像化(fMRI)実験の結果などから、脳内での形の知覚のメカニズムとその発達的な変化について総合的に議論していただく予定である。なお、この講演はSCSシステムを介して全国の視覚研究関係者に配信される。
講演要旨
V1/V2の上位にある視覚野は巨大な受容野であり、輪郭指向(形状)や動きの方向などの局所的情報を統合して視覚シーンの中から大きなスケールの構造物を取り出す機能を保有している。このような高次な腹側および背側機構は、全体的な形状や動きを使った刺激に対する干渉閾値を用いた心理物理的検査で検査が行われる。脳機能画像を用いた実験によれば、全体的な形状や動きを使った検査によって線条体外(extra-striate)にある視覚野にある特定の神経系や重なることなく活性化されていることがわかった。行動検査や視覚事象関連電位を用いて乳幼児の全体処理機能の早期発達を研究した。この結果、生後1月の時点では動きの方向に関する処理よりも、輪郭指向に関する処理のほうが早く発達するが、局所信号を利用可能になるとすぐに全体構造を把握する際に局所的な動きの信号を利用することが判明した。一方で、全体的な形状情報を把握する機能はもっと後で発達する。しかし、児童期の中ごろに、形状に関する干渉閾値は動きにくらべて急速に成人のレベルに到達する。船体的動きに関する閾値は広い神経発達疾患で障害を受けている。この背側経路の脆弱性に関する現象はウィリアムズ症候群・自閉症・脆弱X染色体症候群などの遺伝子疾患だけではなく、半身不随をひきおこすような周産期に受けた脳損傷に苦しむこども、超早産児、失読症の一部にも見られる。
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