Down syndromeとWilliams syndromeにおける視空間認知特性:レビュー



野口和人(宮城教育大学 障害児教育講座)
宮城教育大学紀要(2001) 第36巻:223-232

著者は、以前、知的障害児を対象とした幾何図形模写に関する研究(野口、三浦、小松、1999)において、次のことを指摘した。すなわち、対象とした知的障害児のうち、Down syndrome児が描いた図形には、他の知的障害児が描いた図形と異なる特徴が認められることである。上記の論文は、主として菱形模写において認められる「角の強調」表現に注目したものであったが、角部の微かな膨らみや角部への線の付け足しなどの表現が全てのDown syndrome児に認められた。これらは、明確な「角の強調」表現とは言えないものの、特定の原因疾患と結びついた視空間認知の特徴について検討する必要性を感じさせるものであった。その後、著者の研究室で行われた幾何図形模写に関する研究(佐藤、1999)においても、きわめて特徴的な描画を行った知的障害児のうち、かなりの割合をDown syndrome児が占めていることが見出された。いずれの研究も、描画を定性的に分析することにより、特定の原因疾患と結びついた視空間認知特性が存在する可能性を示唆したが、対象者数が必ずしも十分ではなく、確信を得るには至らなかった。

ところで、近年、Down syndromeと同じく、染色体の異常により生じる症候群であるWilliams syndromeが多くの研究者の注目を集めている。それは、この症候群が、複雑な認知・行動プロフィールを示すことに由来する。筆者にとって特に興味深いのは、Williams syndromeが視空間認知に特に困難を示すとともに、そこに見られる認知特性がDown syndromeのそれと対照的であること、そのような認知特性が、多くの組織的な研究によって繰り返し確認されていることである。だが、一方で、Williams syndromeに特有の視空間認知特性が存在することを否定する研究もある。

本稿では、Williams syndromeとDown syndromeにおける視空間認知の特徴について、これまでの研究で得られた知見を整理しつつ、特定の原因疾患(遺伝子、脳構造)と特定の視空間認知特性を関連づけることについて、いくつかの私見を述べたいと思う。

(2004年4月)



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