ウイリアムズ症候群における大脳皮質の異常な複雑性と厚さの特性



ウィリアムズ症候群に関する論文を補足するコメントが米国のウィリアムズ症候群協会のホームページに掲載されていました。

(2005年7月)

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Abnormal cortical complexity and thickness profiles mapped in Williams syndrome.

Thompson PM, Lee AD, Dutton RA, Geaga JA, Hayashi KM, Eckert MA, Bellugi U, Galaburda AM, Korenberg JR, Mills DL, Toga AW, Reiss AL.

Laboratory of Neuroimaging, Brain Mapping Division, Department of Neurology, University of California Los Angeles School of Medicine, Los Angeles, California 90095-1769, USA. thompson@loni.ucla.edu

J Neurosci. 2005 Apr 20;25(16):4146-58.

7番染色体上から約20個の遺伝子が欠失すという遺伝子病であるウィリアムズ症候群における大脳皮質の未成熟部分を特定して解剖学的に位置づけした。MRIを使用して164例の大脳半球を調査して詳細な皮質の厚さを示す3次元マップを作成した。そこで対照群と比較してウィリアムズ症候群では肥厚している右半球の環シルビウス(perisylvian)野の範囲を確定した。この部分は、大脳の全体容量が少なく、灰白質や白質に障害がある。遺伝子検査で確定診断をうけた42人の被験者(平均年齢29.2歳(標準偏差+/-9.0)、男性19人、女性23人)と40人の年齢を一致させた対照群(平均年齢27.5歳(標準偏差+/-7.4)、男性16人、女性24人)を合わせた82例の脳をT1重みつきMRIスキャン(256 x 192 x 124 volumes)の結果として3次元皮質表面モデルを得た。72箇所の脳溝に関する特徴点を利用する皮質パターンパッチング方法を用いて被験者間の脳の位置あわせを行い、皮質の厚みをマッピングした。この方法でグループの平均マップを作成し、ウィリアムズ症候群における皮質の厚みが変化している領域を特定した。各大脳半球や葉のフラクタル次元(表面の複雑さ)を計算するための周波数領域において皮質モデルを再分割した。表面の複雑さはウィリアムズ症候群で有意に増加しており(左半球はP<0.0015、右半球はP<0.0014)、Steinmetz判定基準によって分類された横頭・頭頂部の回構造の違いと関連している。ウィリアムズ症候群においては、右半球の環シルビウス野や下横頭部位で局所的に5-10%増加している(P<0.002)。空間的に拡張されている皮質領域は複雑さと厚みを増すという特徴がある。対照群においても厚みと複雑さの相関関係が見られた(P<0.03)。これらの知見によって、解剖学的形態が異なっていることでウィリアムズ症候群におけるこの領域が判別できるともに、機能や接続性を利用したさらなる研究が可能になる。

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以下は、上記論文に対するワン博士のコメントである。

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A review for interested parents, by Paul. P. Wang, M. D.

興味をお持ちのご両親のための論評(ポール.P.ワン医師)

 ウィリアムズ症候群における脳の解剖学的研究は1900年代の初めに始まりまり、研究手法は急速に洗練されてきました。もっとも初期の研究はその時点で利用できたMRIの機能に制限されていました。これらの研究では脳の比較的大きな部分の大きさを測定できるレベルでした。最新の研究は脳の特定部分をもっと詳細に見ることが可能で、分解能はおよそ1mmです。

 ポール・トンプソン(Paul Thompson)とUCLAの同僚によって実施された最も新しい研究は、MRIを使って10代から成人のウィリアムズ症候群患者42人と、おおよその年齢を合わせたボランティア40人を比較しているが、遺伝子検査は実施していない。トンプソンと同僚は現在手に入る範囲で最先端の方法を使って脳の特定領域(複雑なシワや溝がある人の脳の表面の図を見たことがあるでしょう)を確定させました。さらに、彼らが利用した手法に寄れば、脳の灰白質(神経細胞の「細胞本体」部分が集中している場所)や白質(神経細胞の軸索がみられる場所)を分別することも可能です。灰白質は脳の表面に存在し、その下に存在する白質の上面をまるで灰色の氷が覆っているように見えます。

 それ以前の研究と同様に、トンプソンらはウィリアムズ症候群の脳の全体容量が、同年齢でウィリアムズ症候群をもっていない人に比べて10-15%減少していることを確認しています。左右の脳半球の容量の減少傾向には優位な差はみられません。画像を詳細に調査すると、灰白質の容量の減少(15-20%)は白質の減少(5-10%)より多いことがわかりました。まさらに、ウィリアムズ症候群の人はそうではない人に比べて、シワや溝のパターンがより複雑であることも発見されました。研究チームは、比較的に少ない白質の表面上に比較的多い灰白質が広がっていることがその理由だと推測しています。その結果として、灰白質の「氷」には大きな凸凹ができていると考えています。

 これまでの研究者達が行えなかった次の段階として、トンプソンらは脳の灰白質層の厚みに注目しました。脳の右半球で、音や言語の処理に重要な働きをしている領域において、ウィリアムズ症候群の被験者の灰白質の厚みが対照群に比べて確かに厚くなっていることを彼らは発見しました。ウィリアムズ症候群において他に灰白質の厚みを増している領域には、顔を認知しや表情の意味を理解することに重要な部分です。対照群よりウィリアムズ症候群のほうが灰白質の薄い領域もありましたが、これらの結果は統計的にみて差があるかどうかは不明です。最後に、灰白質の厚みは年齢と共に減少しますが、これはウィリアムズ症候群の診断を受けているかどうかには無関係だと信じられています。

 残念なことですが、このようなMRIの検査結果を読み解く我々の能力はまだまだ未熟です。灰白質が厚いことがよいことかどうかはまだよくわかっていません。神経細胞の働きが悪いために多くの細胞が必要とされて厚くなっているかもしれませんし、通常より厚いために層内の細胞の働きが異なるのかもしれません。このような発見は、ウィリアムズ症候群の脳の発達は通常とどのように異なっているかを理解することに役立つだけではなく、ウィリアムズ症候群の患者のための治療法方計画作成に重要な理解を与えてくれる可能性があります。



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